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陸 42


「この子泣いてるわ」

行為が終わったのか、女性が私を覗き込んで笑った。

「泣くってことはまだ頭は大丈夫ってことだな」

男性がそう言いながら大きいビニール袋を広げた。

「おい、まだ死なせるわけにはいかないから何か飲ませておけ」
「判ったわ」

スポーツドリンクを私に飲ませながら、女性が教えてくれた。
私は、血が流れ出たらマズいからと、男性が持っていた大きいビニール袋にすっぽりと入れられ、キャリーバッグに押し込まれるそうだ。

「どうなるか判ったらこれを嗅げ」

ドリンクを飲み終わった私の鼻と口にハンカチが当てられ、私は意識を失くした。




ぼんやりと意識が戻った時、バッグの中のようだった。
袋に入れられているせいか、自分の血の臭いで気分が悪い。
息が荒いのは閉じ込められているからだろうか。
このまま・・・・・死んでしまうんだろうか。

たった16で?
それは嫌だ。
でも・・・その方が自分も楽だろうし、オッパにも迷惑をかけないかもしれない。

オッパ。
シンオッパ。
ごめんね。



また眠っていたようだ。
ようやく出してもらえた時、雨が降っていた。
とても寒い。

身体が固まってしまって、バッグから転がり出たまま、動けなかった。
それでも酸素を欲していたようで、冷たい雨の中、私は何度も息をした。
そんな私の両手を、傘を差している二人が片方ずつ持って引きずって歩いた。
もう薄暗くなっているので、この奥の小屋に私を連れていくらしい。

「砂利道だから痛いでしょ。 それとも、もうそれくらいの痛みは判らなくなってるかしら?」

女性が私に言ってるようだ。
あまりな砂利道と、私が入っているせいでキャリーバッグが動かないのだそうだ。


小屋に行く途中、雨で濡れた草むらに投げ出され、右手右足を更に切られた。
ビニール袋の中でも血が出ていたようで、白い服がすっかり赤くなっているのだが、雨に濡れたうえに引きずられたことで、更に酷い状態になっているのが自分でも判った。

なのに、こんな私を彼らは写真に撮った。

止めて。
また宮に送るの?
こんな私をオッパに見せるの?
嫌、見られたくない。
嫌。

オッパ。
もう死にたい。
ごめんね、オッパ。

私はそのまま意識を失くした。







『皇太子殿下におかれましては、ここ最近の環境の変化に体調を崩されまして、年末年始の行事に備えてしばらくご静養なさることになりました』

この公式発表がなされた日、俺は翊衛司数人と共に御用邸に向かった。
御用邸には既に待ち人が来ていた。

「よっ、シン!」

ギョンとイン、それにチェジュンだ。



「お前、酷い顔だぞ。 食ってるのか?」
「少しはな」

ギョンに答えた俺を、チェジュンがじっと見ていた。

「チェジュン、いろいろ調べてくれて助かったよ」
「いえ、妹のためです」

チェジュンは素っ気なくそう言うと、書類を広げた。

イ・ソンフンとシム・ウンジョン。
チェギョンを連れまわしている男女の名前だ。
写真もある。

シン家が調べて判ったのは、二人の名前と住所だった。
なのでチェジュンが友人に頼んだそうだ。
ウラの繋がりを調べてくれと。
その友人のおかげで、二人とソ家との繋がりの証拠が取れたのだ。

「その友人って誰だ?」
「聞かない方がいいと思いますよ、ギョンさん」

チェジュンにそう言われたギョンは黙った。



今度はインが写真を出した。
ソ家に出入りするパク王族の写真だ。
ジヒョンを伴っている物もある。

ヒョリンに使用人のように使われていた頃、インに同情してくれた、ソ家に出入りしている庭師が居たそうだ。
インがソ家のことを聞こうと裏口をうろついていた時、事情を察してくれて、趣味で撮っている写真を見せてくれたらしい。
その中にあった数枚をもらってきてくれたのだ。



それと、今度は俺が出した。
ユルがジヒョンからもらった物で、ソ家とパク王族が交わした念書だ。

俺を皇太子の座から引きずり降ろし、ユルを皇太子に据え、ジヒョンが皇太子妃になった暁には、パク王族はソ家の言うことを聞く、というモノだった。


宮に届いたチェギョンの2枚目の写真を見た後、ユルはジヒョンに腹が立って、学校で詰め寄ったそうだ。

君のせいで今こんなことになってる、どういうつもりだ、こんなことをしでかしても僕は皇太子にはならない、早く止めさせないと僕は皇籍を抜ける、いいのか、大君妃にもなれないぞ。

ジヒョンはチェギョンに起こっていることを知らなかったようで、ただただ驚いていたが、一日待ってくれと言ったそうだ。
そして次の日、これをユルに渡した。


父親がソ家と手を組んだことは知っていた、ソ家のファヨンさんにも呼び出されユルを誘惑しろと言われた、父にも大君妃になれるならと背中を押されユルを誘った、だが自分も初めてだった、妊娠するとは思ってなくて、父にバレた時は産めと言われたが怖くて無理だと言った、それがソ家の耳に入り今回のことになった、チェギョンさんのことは本当に知らなかった、これを渡すことで父も罰を受けるだろうが、ソ家のいいなりになった父を見るよりその方がずっといい、悪かった。


『思ってたよりずっといい子でした』

ユルがこれを俺に渡しながらぽつんと言った。

そうだな、ユル。



「へえ、じゃあ宮が集めた情報とチェジュンの情報とインの写真とユルさまが手に入れた念書で、チェギョンちゃんを拉致した奴らと黒幕を捕まえることが出来るのか?」
「ああ。 あとはチェギョンの居場所だ。 だがこれももうすぐだと思ってる」
「それでシンが行くんだろ? でもさあ、ここへ来たのは敵の目をくらませるためだろ? なのにここから出たらバレないか?」
「そのためにお前が居るんだろ」

俺はインの言葉に苦笑した。

「え~!? またシンの身代りかよ?」 





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お話 其の陸(完)