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伍 23(完)


インがしでかしたことを俺が聞いたのは、東宮殿で1人で夕食を摂っている時だった。

インが日本に行き、チェギョンにナイフで斬りかかった。

衝撃、なんてものではなかった。
すぐにチェギョンに電話をしたが繋がらず、コン内官からもたらされる情報を聞きながら、俺は後悔の渦に飲み込まれていた。

どう考えても逆恨みだ。
申し入れのせいで父親に言われたことが原因だろう。
コン内官もこれ以上ないほどに後悔しているようだ。
私のせいです、申し訳ございませんと平謝りだった。

いや、コン内官のせいではない。
元々は俺のせいだ。

インはヒョリンに心酔していた。
そのヒョリンがあんなことになったから、俺が申し入れをしたから、俺を恨んでいるんだ。
だが。

だからといって矛先をチェギョンに向けたのは許せない!
イン、きっちり罰は受けてもらうぞ。



不謹慎だが、嬉しいことにこのことでチェギョンが宮に戻ってくることになった。
民間機で一般人に紛れて帰国することになっているのだが、宮に着くまでなんて俺が待っていられず、堂々と空港に迎えに行った。
チェギョンの無事な姿を見た途端、感極まって、チェギョンと叫びながらその細い身体を抱き締めた。

帰って来た。
チェギョンが俺の元に帰って来た。

愛しいチェギョンをこの腕に取り戻せたことが嬉しくて、俺は暫くその身体を離すことが出来なかった。



その夜、東宮殿のテラスでチェギョンと二人、話をしていた。
話といっても結局今回のインのことだ。
俺のせいだと言うと、チェギョンにそんな人は嫌いだと言われた。

嫌い?
俺はやっぱり嫌われてるのか?

俺が嫌いかと聞くと、嫌いじゃないと言う。
なら好きか?

思い切って俺が好きか聞いてみたら、

「好きです。 私、殿下が好きです」

と答えてくれた。

その後、本当は結婚前から好きだったと言ってくれた。

嬉しくて嬉しくて、何度も確かめた。
本当か?と。
すると とうとうチェギョンが拗ねた。

「そんなに疑うんならもういいです! お休みなさい!」

立とうとしたチェギョンの左腕を掴んで引っ張り、俺の膝に横抱きにして乗せた。

「逃がすとでも?」

口角を上げてそう言うと、チェギョンは真っ赤になって、腕が痛いから下ろせと言った。

「痛くないだろ? 俺の腹のところにあるのは左腕なんだから」

視線を泳がし始めたチェギョンの耳元に、俺は唇を寄せて囁いた。

「チェギョン。 お前を愛してる」

チェギョンは 大きい眼を更に見開いて、次の瞬間には耳まで真っ赤になった。

俺の膝に乗せられ、至近距離で囁く俺から逃げるに逃げられず真っ赤なチェギョンがあまりに可愛くて、俺はその可愛くてたまらないチェギョンの唇を捉えた。

チェギョンの腕の怪我さえなければ、この体勢のまま俺のベッドに運んでやるのにと思いながら、そう出来ない悔しさをキスに込めた。


・・・・・・やり過ぎたようだ。
チェギョンが気を失ってしまった。




誰の言うことも聞こうとしないインだったが、ヒョリンが面会に来てはっきり言い放たれたことで、憑き物が落ちたかのように大人しくなったらしい。
なんて言われたのかというと。

『なんでそんな馬鹿なことしたのよ! それに此処で喚いてるんですってね。 殿下に棄てられた私が可哀想だって。 馬鹿なこと言ってんじゃないわよ! 私の嘘だったのよ? なんで判らないの?!』
『あんたのせいで私は釜山にも居られなくなったわ! せっかく未成年だからって執行猶予がついて本名のコ・ヨンヒとしてママと暮らしてたのに、ミン・ヒョリンだったってことがバレたのよ!』
『あんたのせいよ! 二度とその口からミン・ヒョリンの名前なんて出さないで!』
『私のことなんて忘れてよ! 迷惑だわ!!!』

・・・はっきり言う女だ。
チェギョンはそれを聞いて、インさんを更生させようとわざと言ったのかも、なんて可愛いことを言っていたが、俺は違うと思っている。


インは未成年だが、狙った相手が皇太子妃だということで2年の実刑になった。
そしてインの父親の会社は傾き、縮小せざるをえなくなった。
インの父親は、お仕置きのつもりがこんなことになってしまったと反省し、宮にも謝罪に来てくれていた。
インが出所したら、すぐ兵役に就かせると言っていた。




そして5月になった。
チェギョンの腕の怪我がすっかり良くなったので、俺の誕生日の夜、俺はチェギョンを抱いた。
プレゼントはお前がいい。
そう言って。

俺の腕の中で女になったチェギョンを、チェギョンによって男になった俺は、明け方まで放してやることが出来なかった。



7月。
留学前にと、合房の儀が執り行われた。
すでに何度も愛し合っていた俺たちは、その夜も濃密な時を過ごした。

というか、おばあさまの指示で出された薬湯を知らずに飲んでしまった俺は、血が滾って、俺のモノが何度果てても治まらず、半ば意識が無いチェギョンをずっと揺さぶっていたのだ。

は~、すまない、チェギョン。



その後2年の予定でイギリスに留学した。
出発前、おばあさまに言われた。

「太子、妃宮はまだ高校生です。 留学を楽しみたいなら避妊をするのですよ」

妊娠したら帰国しなければならないからと。
ああそうだな、そうしないと、と思っていたのに。



イギリスで俺は大学、チェギョンは高校に通い始めたのだが、兄妹ということになっているせいか、やたらと俺の目の前でチェギョンに話しかけ、ハグまでする男が後を絶たないのだ。
その度に夜チェギョンを攻め立てる俺が居る。

チェギョンは大学の綺麗なお姉さんがどうとか言っているが、そんな女は何処にも居ない。
俺にとって綺麗で可愛くて抱きたい女はチェギョンだけだ。
なのにチェギョンはまだ俺の想いを判っていない。

俺がどれほどチェギョンを愛しているか。
どれほど俺だけを見ていてほしいと思っているか。
お前を何処かに閉じ込めて、俺だけを待っていてほしいと、そんな狂気めいたことさえ考えているというのに。

だから・・・・・避妊を止めた。


こんな男どものところに置いておけるか!
翊衛司も数人しか居ないというのに!
韓国に帰るんだ!
宮に帰るぞ!!
チェギョンは俺だけのモノなんだ!


「ねえ、オッパ?」
「ん?」
「今・・・アレつけてくれてた?」
「勿論。 なんで? 良すぎて判らないほどになってたのか?」
「///やっ、やだ、違うもん!」
「違うじゃないだろ? そうだったんだろ? 俺も良すぎて記憶が曖昧なんだ。 はっきりさせるためにもう一度だ」
「え!!///////・・・・・あ・・・っ・・」


年が明けて1月に妊娠が判り、韓国でのチェギョンの大学入学手続きを終えた後、4月、チェギョンが安定期になってから俺たちは帰国した。
父上たちは喜んでいた。
俺も父上も一人っ子だったから、孫は何人でも欲しいと言っていた。
但しチェギョンが居ないところで。
チェギョンの負担になると可哀想だからと言って。


チェギョンには、やっぱり暫くアレつけてなかったでしょ、と言われたが、こうも言ってくれた。

「でもいい。 オッパの赤ちゃんだもの。 嬉しい」

なんて可愛いんだ。
こんなに可愛いチェギョンをあんな目に遭わせていたなんて、俺は一生後悔するだろう。
それはおばあさまも父上も、そして母上もだ。

事あるごとに思い出して謝る俺たちに、チェギョンは、もう過ぎたことだし私はもう忘れた、なのにそうやって謝られると思い出すから止めてほしい、この子のためにも、と言った。

チェギョンがそう言ってくれたことで、俺たちの気持ちが楽になった。


ありがとう、チェギョン。
そして・・・愛してる、チェギョン。

お前は?

「///わ、私も、その、あ、」
「なんだ」
「その、///」
「はっきり言え」
「あ、///愛してる!///」

俺は、やけくそのように叫んだチェギョンの唇を塞いだ。


去年の俺の誕生日に 初めてチェギョンを抱いてから、ちょうど1年。
俺はやっと、愛しい女に言ってほしかった言葉を聞くことが出来た。









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