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伍 21


年末が近かったこともあり、退院してから1月下旬に日本に出発するまで私は宮に居た。

陛下たちや殿下が心を入れ替えてくれたようだからといっても、やはりまだ心から笑えるわけではなく、私はずっと緊張していた。
年末年始の行事も、何をしていたのかあまり憶えていない。
殿下の傍で笑っていただけのような気がする。


宮では皆さまが優しくなったので、どうすればいいのか判らなかった。
だが少しは、陛下たちが優しい状況に慣れ、殿下がいつも私の傍に居ることにも慣れてきた。

私を気遣ってくれる殿下が今までの殿下とあまりに違いすぎて、初めは戸惑いだけだった。
でも漸く、本当に私を望んでくれているのかもと思えるようになっていた。
ということはやはり、殿下を信じますと言ったものの、心から信じ切れていなかったのだろう。



そして私が日本に発つ日の朝、殿下とキスをした。
私にとってファーストキスだ。
殿下もそうだと言っていた。

こんなに素敵な殿下が今までキスの経験がないなんて、俄かに信じ難いが、でも信じたい。
私を待ってると言ってくれた。
これも信じたい。


殿下は私の唇を啄むように何度もキスをした後、言った。

「日本に会いに行くよ。 半年会えないなんて俺が耐えられないから」

はい、と私は返事をした。
待ってますとも言った。
殿下は嬉しそうに笑ってくれた。




日本では、母の兄であるイ・ス伯父さま、ソ・ファヨン伯母さま、1人息子のイ・ユルお兄ちゃんが温かく迎えてくれた。

ユルオッパは、私の従兄弟とは思えないほどハンサムで、柔らかく微笑む、とても優しいオッパだ。
4つ下の私のことを、本当の妹のように可愛がってくれる。
日本に帰化した伯父さまたちと同じように、ユルオッパも日本国籍になっている。

「母さんが勝手にしたんだよ。 僕を兵役に就かせたくなくて」

ま、その気持ちは判らないでもない。



父が任せてもらった店を手伝いながら日々が過ぎた。
チェジュンは、日本語がまだ判らないので、朝鮮学校へ通い始めた。
高校は日本の学校へ行きたいと言っている。

私は殿下と留学してから高校へ1年間通う予定なので、英語を勉強しつつ、付いてきたチェ尚宮さんにお妃教育を受けている。
チェ尚宮さんはすごい。
日本語が話せるのだ。
翊衛司のお兄さんも日本語が話せる人が2人付いてきてくれている。
宮の皆さんってほんとにすごい。



そんなこんなで日々は過ぎ、私はすっかり元気になった。
チェ尚宮さんがすごく喜んでくれていた。

殿下は、日本に来てから毎日のように電話をくれる。

『そっちはどうだ?』
『少しは慣れたか?』
『店を手伝ってるのか?』
『チェギョン、会いたい』


そして本当に突然、殿下が来る時があった。
朝、今日行くからと電話がかかってきて、本当に午前中に店に姿を現すのだ。
チェ尚宮さんや翊衛司のお兄さんたちと連絡を取り合っているのだと思う。
そして暗くなってから韓国に帰っていく。

忙しいのは判っているから申し訳なく思うが、それでもこうして会いに来てくれることが嬉しい。
昼間は私が判るところだけ案内して、早めに夕食を食べた後、私の部屋に籠ってずっとキスをされる。
初めて舌が入って来た時はびっくりしたが、ずいぶん慣れてきた。

そして今も私は殿下に唇を貪られている。


殿下が私の濡れた唇を親指で拭いながら言った。

「チェギョン、4月中旬に1週間休みが取れそうなんだ。 こっちに来るから、あちこち旅行しよう」
「いいんですか? 大学は?」
「大丈夫だ。 じゃあいいんだな? 俺との旅行」
「はい!」

旅行なんて久しぶりだー。
それも日本よ、日本。
嬉しくて顔を綻ばせていると、殿下がにやっと笑って言った。

「ほんとにいいのか? 二人っきりで1週間だぞ?」
「え・・・/// その、ふ、二人っきりは有り得ないんじゃ・・・その、翊衛司のお兄さんとか、チェ尚宮さんとか・・」

そう言うと殿下が不機嫌になった。

「まあな、彼らは居る。 だが壁かなんかだと思えるからな」

え~。
壁には思えないでしょ。
庶民には判らない感覚だわ。

そして殿下は、次に会えるのはその時だなと言って帰って行った。


旅行。
も、もしかしてその時殿下と?
え~~?///

家族に報告すると、母は喜んでいた。
父は泣いていて、チェジュンは異様に興奮していた。
やめてよ、なんなのよ皆。



そして4月になり、大学が始まったユルオッパを迎えに行った帰り、二人で散策しながら話をしていた。

「へ~ 来週旅行?いいなあ、彼が羨ましい」
「なんで?」
「好きな女の子と旅行だよ? それも1週間! 彼、絶対期待してるよ」
「え!!/// そ、そうなの・・・?・・///」
「勿論。 彼だって男だ」
「・・・///」

顔を赤くして黙り込んだ私の耳元に顔を寄せて、ユルオッパが言った。

「ましてや、君たちは夫婦なんだし」

その時、更に赤くなった私の耳に、嘲るような声が聞こえてきた。


「ふん、あいつが居ないからって浮気か? 恥知らずな女だな」


 

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