FC2ブログ

伍 20


3日後、チェギョンは退院した。

チェギョンが学校で倒れた時は記事を抑えたのだが、教師や生徒十数人が逮捕されたことで全てが明るみになり、チェギョンに対する苛めもマスコミが騒ぎたて、国民の知るところとなっていた。
それに、チェギョンへの苛めは俺の態度が原因だとマスコミが嗅ぎつけたので、母上が俺を擁護する会見を開いた。

ミン元王族の嘘を信じてしまって、確認もせず、妃宮を出て行かせるため陛下たちに嘘を吐いてしまった。
そのせいで、太子は妃宮を誤解して辛く当ったのだと言って。
そしてその会見の時母上は、俺とチェギョンの留学と、それまでチェギョンが静養することも発表した。

「深く傷付いた妃宮を追いかけて更に傷付けることのないよう願います」

母上はそう締めくくった。


ただ、年末年始の行事だけは皇太子妃が不在というわけにもいかず、チェギョンは全ての行事を無事に笑顔で乗り切った。



チェギョンたちが日本に行くまでの間、俺は常にチェギョンを気遣い、常にチェギョンの傍に居た。
勿論食事も一緒だ。
チェギョンが戸惑っているのが判ったが、俺は少しでもチェギョンの傍に居たかった。


朝は手を繋いで上殿に行く。
にこやかに迎えてくれる父上たちに、初めは戸惑いだけだったチェギョンも、1週間、2週間と経つうちに微笑むようになっていた。


チェギョンのご両親がお金を返しに来た時は、母上が泣いて謝ってそのお金を固辞しようとしたのだが、反対に、是が非でも受け取ってほしい、チェギョンのためにも、とご両親に押し切られた。

ご両親が言うには、日本での生活の基盤が出来たそうだ。
1月いっぱいで家を空けなければならないから、下旬には日本に発ちたいと言われてしまった。


俺は、時間が許す限りチェギョンと過ごそうと思った。
チェギョンはもう学校には行かないので、俺も同じように宮に居て、執務の時以外はチェギョンと過ごした。
俺が笑いかけるからか、チェギョンも時折俺に笑顔を向けてくれるようになっていた。




そして、チェギョンが日本に出発する日が来た。

その日の朝、俺はチェギョンの部屋に行った。
女官たちを下がらせ、俺はチェギョンと向き合った。

「チェギョン、半年経って7月になったら戻ってきてくれるよな?」

自分でも情けない声だと思ったが、どうしても最後に確認したかった。

「はい」
「そのあと俺とイギリスに留学してくれるよな?」
「はい」

事務的な返事だったが、イエスだったのだからと自分に言い聞かせ、俺はチェギョンの肩を引き寄せた。

大人しく俺の胸の中に居るチェギョンは、まだとても細い。
最初と比べるとずいぶん食べられるようになったそうだが。

「チェギョン、約束の証をもらえるか?」
「?」

なんだろ?という顔をしたチェギョンに、俺は自分の顔を近付けた。
どんどん近付く俺に思わず目を瞑ったチェギョンの唇に、俺は自分の唇をしっかり重ねた。

真っ赤になったチェギョンに、俺は言った。

「俺のファーストキスを奪った責任を取ってくれるか?」

口元が緩むのが抑えられなくて、俺は多分ニヤニヤしてたんだろう。
チェギョンが赤い顔のまま俺を睨んで呟いた。

「う、奪ったって、どっちが・・・」

にやけたままで俺は聞いた。

「チェギョンも初めて?」
「当たり前・・・!・・・です・・///」

俺に声を荒げそうになり、はっとして俯いたチェギョンの両頬に手を添えて、俺は言った。

「嬉しいよ、チェギョン。 俺もお前が初めてだ。 好きだよ、チェギョン。 待ってるから。 此処でお前を待ってるから」
「殿下・・・」

そしてもう一度、唇を重ねた。
チェギョンはキスを拒めなかっただけかもしれないが、それでも俺は嬉しくて、暫く唇を離すことが出来なかった。




チェギョンが日本に行ってしまった。

俺はそのことを、向かいの部屋に明かりがついていないのを見て実感していた。
パビリオンを抜けて、主の居ない部屋に入ってみた。
まだ家具はそのままだ。
だが此処は改装するつもりだ。

退院してからは一月足らずだからとチェギョンはそのまま此処を使っていたが、この部屋は今までチェギョンがたった一人で泣いた部屋だ。
だから、内装を変えてしまおうと思っている。

だが本当は、チェギョンが許してくれたら俺の部屋を二人の部屋にしたい。
・・・・・・まだ言えないが。




俺は高校を卒業した。
卒業式の日、インの様子が変だとギョンが言っていた。
ファンの話だと、宮からの申し入れがあったことでインは父親に酷く叱られ、長男であるにも拘らず、会社の後継から外されたそうだ。
・・・厳しい父親だな。

「だから少しショックを受けてるんだと思う。 僕たちだって小遣いも車も取り上げられたんだ。 大学生になったらバイトを始めるつもりだよ。 僕もギョンもね。 でも親にそう言ったらなんか喜んでた。 今まで言わなかったが、お前は高校生のくせに偉そうで鼻もちならなかったって言われたよ。 だから僕は殿下に申し入れされたこと、悪くなかったかもって思ってる」
「・・・俺もそう思ってる。 いい社会勉強になったなって親父に言われたから」

ギョンまでがそう言ってくれた。

「ありがとう、そう言ってもらえると少し気が楽だ。 俺が悪いんだってことは判ってたから」

正直な気持ちを言ったのに、ファンとギョンは心底驚いたようだった。
失礼な奴らだ。

「インのことは厳しい気がする。 俺からインの父親に口添えしておくよ。 知らせてくれてありがとう」

そう言うと、二人はぽかんと口を開けたまま身動きもしなかった。
俗に言う固まった状態か?
俺がこんなことを口にするなんて思いもしなかったようだな。
ほんとに失礼な奴らだ。



その後、俺は本当にインの父親に口添えをした。
こっそりと会社まで出向いて。
悪いのは私なのだから、後継から外すのは考え直してもらえませんかと言って。
するとインの父親は、

「わざわざお越し下さるとは思いもしませんでした。 大丈夫です。 実はインは傲慢な息子でして、なんとかしたいと思っていたのです。 殿下の申し入れを渡りに船とばかりに、少しお仕置きをと思いまして、インにはあのように言いました。 ですが長男ですし、私の本心ではありません。 インに反省の色が見えたら撤回するつもりです」

と、にこやかな表情でこう言った。 

「そうでしたか。 申し訳ありません。 出過ぎたことを言いました」
「とんでもございません。 気にかけていただき、光栄です」


よかった。
元々は俺の態度が招いたことだからな。

このことをインに言っておいたほうがいいかもと思ってコン内官に相談したら、家族の問題だから暫くは静観するほうがいいのではと言われ、そうすることにした。

言っておけばよかったと、後で、俺もコン内官も悔やんだ。
 



関連記事
スポンサーサイト