ヒョリンの「プロポーズ大作戦」(後編)(完)
シンが私を妃として迎えることが出来ないのは、彼が皇太子だからだ。
ならば、皇太子でなくなればいい。
そのことに気付いた私は、タイのコンクール優勝後、バレエ学校の入学手続きにサインする前に戻ることに決めた。
あの場でサインをせずに帰国して、妻帯者となったシンに近付き、言葉は悪いが私とのスキャンダルでシンが皇太子を降りることになれば、私はずっとシンと居られる。
あの頃ならシンの心は私のものだから、近付くのは容易いしシンも受け入れてくれる。
私は最後の思いを込めて、最後の豆粒を放り投げた。
「ヒョリン、サインするのよ。 すごくいい条件なのよ」
「すみません、私入学しません」
もう知らないわ!と、当然のようにナム先生は怒ったが、「実は昨夜母の具合が良くないと聞いたので」と嘘を吐いたことで、仕方ないわねと許してもらえた。
先の時のことがあるので、何としてもナム先生をキープしておきたかったのだ。
帰国してから、私は殊更シンの前に現れた。
電話もするし、シンが居るかもしれないので乗馬クラブへも顔を出す。
お嬢様だと思っているからかもしれないが、シンは拒絶しないしインたちも快く受け入れてくれた。
こんなことなら、最初からサインなんかせずに帰国すれば良かった。
でも、あの老人のおかげで同じことになったのだから、まあ良い。
老人が実は何なのかは判らないが、そのこともどうでも良い。
シンの結婚が報じられた時、ギョンがシンと私のことを“不倫カップル”などと言ったらしいが、私はそれを現実にするつもりなのだ。
そして、シンを窮屈な皇太子の座から解き放ってあげて、2人でフランスに留学したい。
私の中では、シンとの未来の青写真が出来上がっている。
名ばかりの皇太子妃シン・チェギョンは、庶民臭くて下品で、シンには全然似合わない。
シン、待っていてね。
もうすぐ自由にしてあげるわ。
その後、思いもしないことに私は、ナム先生を通じて元皇太子妃のファヨンさまと、本来なら皇太子だったはずのユルさま親子と知り合うことが出来た。
「皇太子妃選びは間違っていたわ」
「あなたなら上品で綺麗な妃殿下だったのに」
ファヨンさまにそう言ってもらえたことは、私の自信に繋がった。
「シンがもし皇太子を降りることになったら婚姻も無効になるわ。 そうしたら彼はいつもあなたの傍に居るのよ」
そしてその言葉で私は一層シンを欲するようになり、シンが公務でタイに向かった時に、追い掛けようと決心したのだ。
ところが。
タイにはあの庶民も来ていたので、シンに電話したのに出てもらえなかった。
あの子が居たせいに決まっている!
結局タイでシンに会うことも出来ずに帰国した私は、暫くしてから、宮主催のパーティーが来月初めに御用邸で開催されることをファヨンさまから聞かされた。
「どんなパーティーなのかは実は詳しく聞いていないけれど、友人枠で出席すればいいわ」
そう言ってくれたファヨンさまは、どうやら手配してはくれなかったのか、私に招待状は来なかった。
が、当日私は、インのパートナーとして初めて御用邸に入ったのだ。
広くて素敵なところだ。
シンと一緒に居れば、いつかまた来ることもあるだろう。
自分の居場所のように胸を張ってインと共に中に入ると、すぐに皇族方がお越しになった。
皇太后さまや皇帝夫妻とともにあの庶民が居たことに腹が立ったが、今は致し方ない。
招待客たちの拍手が収まった時、シンが口火を切った。
「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。 早速ですが、私からご報告があります。 実は私の妻であり皇太子妃が懐妊いたしました」
・・・・・え???
<皇太子妃殿下がご懐妊なさったそうです!>
<20年振りの皇族のご誕生になります!>
次の日のニュースは、そのことばかりだった。
インたちも知らなかったらしく昨日は驚いていたが、今日学校で、おめでとうとシンを揶揄っていて、悔しいことにシンも嬉しそうだった。
ファヨンさまも知らなかったのかどうか聞いてみたかったが、ユルまでもが電話に出なかった。
どころか、「この番号は現在使われておりません」というアナウンスが流れたのである。
「・・・」
ファヨンさまたちがどうなったのか判らないが、どうやら私はまた失敗したようだ。
でももう豆粒はなく、やり直せない。
ならば、シンに執着するのはやめてバレエに専念しよう。
「ナム先生、今日からまたよろしくお願いします」
私は、久し振りに先生のバレエスタジオを訪れて先生に挨拶した。
「ああそうなの。 頑張ってね、ヒョリン」
先生の返事があっさりし過ぎていて変だと思っていると、なんと別の子を見つけたらしい。
「まだ12歳なんだけど、すごく素質のある子なの。 来年の国際バレエコンクールに向けて、精一杯の努力をしてるのよ」
・・・そんな。
「あなたも頑張ればいいわ。 でも悪いけど、これからはあまり私をアテにしないでね」
彼女を迎えに行くからと言って先生はスタジオを出て行き、私は一人で取り残されてしまった。
「・・・」
ナム先生が私から離れたということは、大学もどうなるか判らない。
いや、学費は出してもらえないだろう。
シンと一緒に留学という計画はパアになったし、バレエ留学も無理かもしれない。
スタジオの床に沈みそうなほどショックを受けた私は、この時やっと気付いた。
老人に豆粒をもらった時に、バレエ学校の入学当時に戻って、より一層努力すれば良かったのだ。
いや、先生に叱責される前に戻れば良かった。
そうしたら・・・。
私はプリマになれたはずだ。
スポットライトを浴びて踊る自分の姿を想像して、今度は老人に怒りが沸いた。
せっかく破格の待遇で入学出来たというのに、あの時に老人が現れたせいで、私は今こんなことになっているのだ。
老人のせいだ!!
すごく悔しかった。
もう一度老人が現れはしないかと、私は思い切り何度も何度も、「悔しい!」と繰り返した。
だが・・・。
もう、老人が現れることはなかったのである。
完
如何でしたか?
まあ、いつものヒョリンですね。(笑)
タイトルはかのドラマからいただきました。
いつかこれでシン君のも書きたいなあ。(≧∀≦)
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