FC2ブログ

鏡花水月 3



後宮には、様々な年齢の十数人の側室候補たちが居た。
つまり周りの王族たちが、自身の損得勘定で身内の男たちを後宮入りさせている、ということだろう。


「実際に側室として選ばれるのは、このうちの5人らしいぜ」


俺にそう教えてくれたのは、昔、書堂で一緒だったカン家の次男インだった。
俺と同じ18歳の彼も、次男だということで後宮に来たようだ。


「5人だけか? じゃあ他の者は?」
「さあ? 出戻りってことじゃないか? そこまでは俺もよく判らない」
「・・・」



女帝、いや王様の正式な夫というのは、実は既に決まっているらしい。
ならば、婚姻より何故先に側室選びがあるのか。


「お偉いさんの思惑があるんだろうな」


それも、インには判らないようだ。
夫は無理でも側室になれたらそれなりに権力がある、お互い頑張ろうと、彼は言った。






それから、日々の教育というか試験のようなものが始まった。
科挙も受けていないのに、今でも両班としての礼儀作法が身に付いている俺が気に入らないのか、勉強前に用意する物をわざと俺に教えない者とか、落ちぶれた家の男が居るぜと笑う者も居た。


「側室でもいいから成り上がろうって魂胆が見え見えだよな〜」

はははっと笑われても、俺には何も言えなかった。
その通りだからだ。

「今は皆同じ立場でしょう。 違いますか?」

そのインの言葉で、たった今まで笑っていた年上の両班たちは、皆気不味そうに口を噤み、それぞれ何処かに行ってしまった。



この時知ったことだが、インは次男といっても妾腹の子で、本妻や長男、長女に散々馬鹿にされていたらしい。

「俺を此処に入れたことで厄介払いしたつもりだろうな。 だから俺は、王様に気に入られて奴らを見返してやるんだ」


そのインの言葉は、ハン氏に言われたことを俺に思い出させた。
<側室になれたら、彼の息子に便宜を図ること>

俺も、王様に気に入られるよう努力をすべきだろうか?
だが・・・。



溜息を隠した俺に、インが聞いて来た。

「でもシンジェは何でもよく知ってるな。 実際のとこ、何処で勉強したんだ?」
「父の蔵書があって、俺も本が好きだから」

そう言うと、インは納得したように頷いた。

「イ・ヒョンさまは弘文館の文官だったっけ」
「ああ」



正三品の直提学の役職を目前にして亡くなった父が遺していた様々な本は、俺に色んな知識を与えてくれた。
それが今、役に立っているということだ。







ひと月後、側室の5人が選ばれた。
何故か俺、そしてイン、そして20代の男が3人だった。
他の者は後宮内の仕事に従事するらしい。



選ばれたことで個別に楼閣が与えられ、衣服も変わり世話係が付いた。
上衣の世話をしてもらうなんていつ以来だろう?




「では下がらせていただきます。 御用があればいつでもお呼びください」
「ありがとうございます、おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」


俺付きになったという、まだ14歳のリュ内官が下がると、部屋は静寂に包まれる。
その途端に現れるのは、チェギョンの幻だ。

インたちが居た時ならともかく、此処でひとりになってから、日々頭に浮かぶのはチェギョンのことだった。




あれから数ヶ月。
今頃どうしているのだろう?

俺が突然居なくなって悲しんでいるだろうか?
それとも、挨拶もせずに姿を消した俺のことなど、もう忘れているだろうか?


「・・・チェギョン」


ひとこと、好きだと伝えておけば良かった。
ギョンが言ったように、一度だけでも抱き締めれば良かった。

俺もチェギョンも一層辛くなるだろうが、それでも・・・。





インとも会えなくなり、側室の一人になったといえど王様にはまだお会いしていないし、特にすることもなく日々チェギョンを想って、時には本を読んで数日が経ったある日、部屋に絹織物が運び込まれて来た。

「王様とのお顔合わせの日が決まりました。 その日のお召し物をお仕立ていたします。 どれになさいますか?」

十数枚の生地の中から選べというのだ。
さすがというべきかどれもこれも綺麗な絹だった。




チェギョンの家もこういう物を扱っていた。

『シンジェさまは大人っぽいので落ち着いた色がお似合いですね』

新しく服を仕立てる余裕もなくなったことで、姉が祖父や父の服を縫い直してくれていて、俺はそれを着ていたのだ。
遊び歩く他の両班たちとは違うのだと、自分に言い聞かせるように。

なので、そのチェギョンの言葉に苦笑いしか出なかったが、そう言ってくれた気持ちは嬉しかった。
多分、他の誰かに言われていたら、皮肉かと怒ったかもしれないが。




そんなことを思い出しながらも、俺は目についた1つの絹を手に取った。

それは、18の男が身に着ける色合いのものではなく、地味な物だった。
が、そのくせ光沢があって綺麗で、まるでチェギョンの家にあったような絹織物だったのだ。


「イさま、こちらのほうが美しいですよ」

リュ内官が別の物を差し出したが、俺はこれがいいと言った。






そして数日後、仕立て上がったその衣を身に着けた俺は、途中で、派手な衣装に身を包んだインたちと合流して、王様との顔合わせに向かったのである。







「皆さま、お顔を上げてください」

王様付きの尚宮の言葉に、俺たち5人は心持ち緊張しながら顔を上げた。
いよいよご対面なのだが、当然、王様は御簾の向こうなので、俺たちからは拝顔することは出来ない。

「皆さま、ご苦労でした。 イ尚宮、あとは良しなに」

王様はそう言うとすぐに退室してしまい、俺たちはイ尚宮という王様付きの尚宮から今後のことを聞かされた。



これから暫く、俺たちと王様とのお茶の時間が設けられているそうだ。
その時には、笛などの楽器の演奏を披露してもいいらしい。

つまり、少しでも自分を目立たせたいなら、ということだろう。
俺にはそこまでする気はないが、インなどは張り切っていた。






その後、2、3日に一度、本当に王様とのお茶会があり、俺たちはその度に上衣を新調した。
インも含め、他の4人はきらびやかな衣装を身に着けていたが、俺は相変わらず地味な装いだったので、リュ内官ががっかりしているようだった。

「イさまはお顔立ちが良いのですから、もっと明るい色のお召し物が似合うと思うのですが」
「私は色が黒いので」

そう言うと、だからなのにと彼は小さく呟いた。
若いせいか、ポロッと漏らす言葉が子供っぽくて、弟が居たらこんな感じだろうかと思った。

彼をがっかりさせるのは少々申し訳ないが、俺は派手に着飾る気はないのだ。




だが。

そんな風に地味な俺だったのに、ある日何故か、王様の夜伽を命じられたのである。



関連記事
スポンサーサイト



28 Comments

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2021/02/26 (Fri) 22:28
  • REPLY

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2021/02/26 (Fri) 22:35
  • REPLY

まあむ

こんばんは
目的を達成したのですから、喜ぶべきなんでしょうが、
チェギョンに心を残したままなのが気になります。
派手に着飾る自己顕示力が強い人ばかりの中、
穏やかで落ち着いているようにみえたのかな?

  • 2021/02/26 (Fri) 22:43
  • REPLY

ビオラ  

merryさま、こんばんは。お話の更新ありがとうございます。
科挙の試験は受けられなかったけれど、亡父の蔵書のおかげで知識が豊富で礼儀作法が身に付いていたシンジェは5人選ばれる側室の一人に選ばれましたね。そんなシンジェが選ぶ布地はチェギョンが似合うと言ってくれた落ち着いた色。他の人の目立とうと派手な衣装の中、落ち着いた色目の衣装のシンジェは目をひいてしまったみたいですね。夜伽を命じられたシンジェはどうするんでしょうか?

yurin

気持ちの整理

こんばんは^^v

シンジェ――
側室に選ばれましたねぇ~
お父様の蔵書が素晴らしかったこともでしょうがv-222
両班としての作法がしっかりと出来ていたからでしょうし。
さらに派手過ぎず、品よく衣を着こなしたことも良かったのでしょうかv-221

夜伽の命―
チェギョンに想いを残したままですが…
どうなっていくのかv-236
お話の続きが楽しみですねv-352
今日はありがとうございましたv-354

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2021/02/26 (Fri) 23:10
  • REPLY

tiem

merryさん、おはようございます!
更新ありがとうございます。

女帝の側室候補に挙がったシンジェ達。
まぁ、この中でも言いたい放題の悪口を。
ここで一喝してくれたのがイン君だったようねぇ。
イン君の立場も大変な立場だったんだよねぇ。
シンジェは貧しいながらも知識があったんだねぇ。
そんな彼らに、声がかかり、着物の手配が。
シンジェは皆とは違い地味なものを選んでいたようねぇ・
チェギョンの事を想いながら。
ここに来る前にチャンと告白をしていたらと。
でも、悲しい思いをさせると思ってしまったシンジェで。
そんな彼に女帝から命が下ったようねぇ・
夜伽の命がシンジェに。
シンジェの運命がここで決まる??
お相手に決まるの??

  • 2021/02/27 (Sat) 03:37
  • REPLY

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2021/02/27 (Sat) 05:08
  • REPLY

sai*****

おはようございます😊

シンジェ…側室に選ばれてしまいましたね😢
そして、夜伽の命が…
1人になって思うのはもちろん、チェギョンのことばかり…
やっぱり、『ひとこと、好きだと伝えておけば良かった。』…と思っているようですね😢
ハッピーエンドだとわかっていても、辛くて、なかなか最後まで読むことが出来ませんでした😅
お話の続きを楽しみにしています🎵

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2021/02/27 (Sat) 07:27
  • REPLY

hidedeeichan

こんにちは😊

シンジェが夜伽に御指名されちゃった~(´Д`)
側室5人の中に選ばれても控えめなシンジェはかえって目立ったでしょうね。
女帝に何か考えがあるのか?ただシンジェを気に入ってか?・・・選ばれてしまえば行くしかないですよね😞
チェギョンの事が何をしていても思い出しているような気持ちで女帝の夜伽・・・シンジェは辛いでしょう😩

  • 2021/02/27 (Sat) 11:44
  • REPLY

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2021/02/27 (Sat) 14:57
  • REPLY
merry

merry

To と さま

コメントありがとうございます。

ほんとほんと、もしかしたらそう思われてるかも。^^;
シンジェにそんなつもりはないのに〜〜・・・。
さて、伽なんてね〜〜〜〜〜〜、シンジェはどうする??
でも、断れるはずないんですよね〜・・・。

  • 2021/02/27 (Sat) 21:20
  • REPLY
merry

merry

To ふ さま

コメントありがとうございます。

「持って生まれたイケメンマスク」に大笑い!(≧▽≦)
そ、断れないし、「王の男」になっちゃうのも(私達が)嫌ですよね〜〜〜〜〜。^^;

  • 2021/02/27 (Sat) 21:27
  • REPLY
merry

merry

To まあむさま

コメントありがとうございます。

そ、「目的」は達したわけですが・・・、私達もシンジェも少々複雑ですねえ。^^;
地味なのがそう見えたんでしょうねえ。

  • 2021/02/27 (Sat) 21:36
  • REPLY
merry

merry

To ビオラさま

コメントありがとうございます。

5人の中に選ばれ、挙げ句地味なのが目を引いたのか、夜伽の相手に指名されてしまいました!
断ることも出来ませんよね〜〜〜・・・・・・。(ーー;)

  • 2021/02/27 (Sat) 21:38
  • REPLY
merry

merry

To yurinさま

コメントありがとうございます。

選ばれましたねえ〜〜〜・・・・・・。
うんうん、そういう理由でしょうねえ。^^;
挙げ句夜伽まで言われてしまいました。
さて、どうする???

  • 2021/02/27 (Sat) 21:44
  • REPLY
merry

merry

To ラプ さま

コメントありがとうございます。

気に入られちゃいました〜〜・・・。
チェギョンに思い切り気持ちを遺してるというのに、夜伽なんてね〜。(ーー;)

  • 2021/02/27 (Sat) 21:47
  • REPLY
merry

merry

To tiemさま

コメントありがとうございます。

チェギョンへの想いを断ち切れないまま側室になってしまったシンジェ。
そんな彼に夜伽の命が!!(*_*)
お相手に決まっちゃいましたよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
断れませんよね・・・。(ーー;)

  • 2021/02/27 (Sat) 21:50
  • REPLY
merry

merry

To m さま

コメントありがとうございます。

後宮に入ろうとも、シンジェの心にはチェギョンが。
そ、地味なのが却って気に入られたようです。^^;
夜伽の相手にも決まってしまいました。
断れるはずないし・・・・・・・・・・・・・・・。←

  • 2021/02/27 (Sat) 21:56
  • REPLY
merry

merry

To sai*****さま

コメントありがとうございます。

後宮に入り、側室に選ばれ、いよいよ逃げられないようになってやっと、告白しておけばよかったと悔やんでいるシンジェです。
なかなか切ないですよね〜〜・・・。(T_T)

  • 2021/02/27 (Sat) 22:00
  • REPLY
merry

merry

To n さま

コメントありがとうございます。

そ、外見も中身も備わっています。
「目立とう精神」はなかったのに、夜伽を命じられてしまいました〜〜〜・・・。
チェギョンのことしか考えてない彼なのに、でも受けるしかないですよね。(ーー;)

  • 2021/02/27 (Sat) 22:03
  • REPLY
merry

merry

To hidedeeichanさま

コメントありがとうございます。

控えめなのが却って目立ったんでしょうか。
選ばれてしまいました〜〜〜・・・。(ーー;)
そ、行くしかないです。
彼も辛いですう・・・・・。(T_T)

  • 2021/02/27 (Sat) 22:06
  • REPLY
merry

merry

To j さま

コメントありがとうございます。

とうとう側室に選ばれてしまいました。
おまけに夜伽まで!_| ̄|○
チェギョンのことを忘れられないというのに、でも断ることも出来ません〜〜〜・・・。(ーー;)

  • 2021/02/27 (Sat) 22:10
  • REPLY

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2021/02/27 (Sat) 22:55
  • REPLY
merry

merry

To し さま

コメントありがとうございます。

チェギョンへの気持ちを思い知ったでしょうね〜〜・・・。
そ、告白していたところで、余計に辛いですもんね。(ーー;)

おおっ!ファンに気付いてくれて嬉しいっ!(≧▽≦)
味方でいて欲しいですね〜〜〜。

え、そうなんですか?
私、あれ全然知らないんです。^^;
ソレは特に考えてませんでしたけど、そうします〜〜〜〜〜〜〜っ!(*^^*)
ついでに潰せますもんね。←

いえいえ、助かりますよ〜〜〜〜〜。(笑)

  • 2021/02/27 (Sat) 23:08
  • REPLY

Miko

こんばんは!

名前がシンジェ? 男性が側室? まだ少し慣れないです。
でも、この先の展開が凄~く気になってます。シンジェはチェギョンを忘れられずにいるのに、むしろ募ってるのに王様の夜伽…。

シンジェはどうするんだろ?
チェギョンは大丈夫かな?

  • 2021/02/28 (Sun) 22:15
  • REPLY
merry

merry

To Mikoさま

コメントありがとうございます。

ぷぷぷ、まだ慣れません?(笑)
名前は最後に判ります。
男性が側室ってのは、彼がCMしてたアレですよ、アレ。
チェギョンは彼が後宮に居ることなんて知りませんからねえ。^^;

  • 2021/02/28 (Sun) 22:39
  • REPLY