You only live once 21
イ・ガンヒョンさんに追い立てられるようにチェギョンの病室を出された俺は、それでもすぐに帰ることは出来ず廊下に居た。
すると、暫くしてからユルも出て来たのである。
どちらからともなく「帰ろうか」と言って、二人して駐車場に向かったのは、お互いに相手をチェギョンの傍に置いておきたくないという気持ちからだろう。
駐車場まで来た時、先に口を開いたのはユルだった。
「チェギョンたちを突き落とした犯人は、ヒョンの恋人だって?」
「違う。 昔の知り合いだ」
思わずそう言うと、ユルは鼻で笑った。
「よく言うよ。 デパートで叔母さんが騒いでたじゃないか。 家族も認めた恋人が居るって」
「あの時は誤解してたんだ」
判ってるくせにそんなことを言ったユルに腹が立って、顔は顰めてしまったし、怒りを抑え込もうと手も握り締めた。
だがユルはそんな俺を見据えてはっきり言ったのだ。
「とにかくヒョン、もうチェギョンには関わらないでくれ。 謝罪は僕が代わりにしておくから」
「・・・」
チェギョンが怪我をした原因を作った俺に腹を立てる気持ちは判る。
だが、俺もユルに言われるのは腹が立つ。
だが・・・、本当のことなのでやはり何も言えない。
すると、車に乗れとユルは言った。
「ヒョンが出て行くのを見届ける。 先に帰ってくれ」
「・・・判った」
「いや、此処に残る」などと言えるはずもなく、俺はそのまま自分の車に乗って病院を出た。
「よお、シン」
昼間警察で証言してくれたので、礼を言おうとインのクラブに行くと、ギョンとファンも来ていた。
「今日はありがとう、イン。 助かったよ」
「いや、ほんとのことだから。 それよりヒョリンのことで話がある」
インの義父、つまり奥さんの父親はこのビルのオーナーなのだが、彼はミン社長の同級生で、実は今でも懇意にしているそうだ。
俺、今日まで知らなかった!とインは言っていた。
警察での証言の後、インは義父母の耳に入る前にと事情を説明するために義実家に行き、そこで聞いた話によると、ヒョリンはミン社長夫人の娘ではないのだとか。
ヒョリンは実はミン社長が使用人ソン・ジヒョさんに産ませた娘で、だが普通に夫人の娘として何不自由無い暮らしをしていて、何よりヒョリン本人はそのことを知らないらしい。
「じゃあヒョリンの本当の母親のソンさんは?」
「それが・・・、今でもミン家の使用人だそうだ」
「・・・」
酷いなと言ったのはギョンだった。
「で、今回のことで社長はヒョリンを切ったみたいだ」
今日、ヒョリンの籍は母親のほうに移されたらしい。
つまり、ミン・ヒョリンではなくソン・ヒョリンになったということだ。
そして、ミン・ヒョリン名義の金を全て賠償金としてチェギョンに渡す手続きをしているらしい。
「顧問弁護士を動かしたようだ。 チェギョンさんのところへは明日行くそうだぞ、と義父が言ってた」
「示談金を渡して不起訴にしようというのか?」
「俺もそう思った。 だけどミン社長は、ヒョリンが実刑を食らってもいいらしい」
あの男は冷たいところがあるから、とインの義父は言っていたそうだ。
「ヒョリン本人が稼いだ金じゃないからこそ、これで終わりにすると言ってたみたいだぜ」
つまり、正妻の子ではないのに32年も育ててやったから出て行けということだ。
実際ミン社長は、ヒョリンが行きそうな別荘などを警察に教えたらしい。
「だが自分はほんとの父親だろうに」
やはり、そう言ったのはギョンだった。
ミン社長が警察に協力してるので、ヒョリンは今夜のうちに逮捕されるだろうとインは言った。
「事件を起こしておいて逃げたから、余計にマズかったよね」
自業自得だろうけど、とファンは続けた。
その通りだ。
2人を突き落としておいて逃げたのが間違いだった。
が、そのことで刑が重くなるのならそれでよかった。
そう言うと、ギョンが身体を震わせた。
「シン、お前怖いぞ」
「何がだ。 チェギョンの姿を見たらそんなことは口が裂けても言えないぞ」
睨みつけてそう言うと、ギョンは黙ったしファンは頷いていて、インは肩を竦めた。
この時ファンが、遊園地でのことから、チェギョンはユルのことを避けているみたいだと教えてくれた。
「彼のこと、特に何とも思ってないらしいよ。 ソジュンのことで手一杯なんだ」
だが若い女性なのに。
「チェギョンはこれまで色々あったからね」
ガンヒョンに聞いた話だけどと前置きされて聞いた話は、酷いものだった。
つまり俺もだがユルも、そんな男たちと同じだと思われたということだろうか?
それとも、今は違うだろうか?
家に帰ると、母が飛び付いて来た。
「チェギョンさんに会えた!?」
「いいえ」
「そう・・・」
肩を落とした母は、だが明日病院に行って来ると言った。
「何としても謝らないとね」
「はい」
インに聞いたヒョリンのことは、家族にも伝えておいた。
「今まで本当に気付かなかったのかしら?」
そう言ったのは母だった。
平気で嘘を吐くような強かな娘だから、知らないふりをしていただけかもしれないというのだ。
「逮捕されればそのことも判るだろう」
祖父の言葉に、皆が頷いた。
そして朝、警察からヒョリン逮捕の連絡があった。
彼女は、済州島のミン家の別荘に居たらしい。
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