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肆拾肆 39



それは一瞬の出来事だった。
車が突進して行ったことで、その場に立っていた十数人が横に後ろに飛んだのだ。

「シン君!!」

思わず叫んでいた。





横断歩道の向こうは停車した他の車や近くに居た人たちですぐにいっぱいになり、背の高いシン君の姿など見えない。

ということは倒れているのだろうか?
怪我をしているのだろうか?
意識を失っていないか。

まさか死・・・っ。





信号待ちの間そんなことを考えてジリジリしていた私は、青になったことで真っ直ぐ走った。

「シン君!!」

名前を呼ぶのはマズいかと思うが、呼ばずにはいられなかった。





大勢が倒れていて、血は流れているし荷物も散乱している。
皆がそれぞれ喚いていて、ドイツ語とフランス語が入り混じっていた。



昨日の私の言葉が思い出されて、あんな言い方をしなくても良かったのでは、もっと他に言い方があったのではと私は後悔していた。

腹を立てたことや、今笑顔で手を振ってくれたシン君に気付かないふりをしたことも申し訳なくて、ごめんねごめんねと何度も心の中でシン君に謝りながら、私はシン君を探した。


でも、倒れている人の中にシン君らしき人は居ない、ようだった。




「シン君、シン君・・・っ」

おろおろするばかりで涙は止まらず、私は増えて来る人の間を縫って歩き回っていた。

その時。


「チェギョン」

私を呼ぶ声がした。





シン君だ!!


慌てて振り向くと、シン君がちゃんと自分の足で立っていた。
あまりにほっとして一層涙が零れ、思わずシン君に縋り付いて泣いてしまった。

「よ、良かった〜〜・・・・・」
「ごめん、チェギョン。 驚いたろ?」

優しい声がして、優しい手が私の頭を撫でてくれていた。





この時、シン君を失くすかもしれないという恐怖と、あんなことを言った後悔ととともに、私はやっと、本当にやっと、心の奥底にあったシン君への気持ちに気付いたのである。


「元家族」だから「現皇太子」と「元皇太子妃」だからと、自分の心を縛っていたのは私自身だったのだ。

もしかしたら、今まで気付かなかっただけで、私は前からシン君を好きだったのかもしれない。
「家族」としての「好き」だと思いたかったのかもしれない。


だって私は、身体が震えるほどシン君が心配だったし、無事だったことで足の力が抜けそうなほど安堵しているのだから。







シン君に特に怪我はなかった。
前の前の人が、逃げ切れずに車に当たったことで後ろに飛んで来たらしく、シン君は自分の前に居た人に押されるように倒れてしまい、その時に肘を擦り剥いただけだったのだ。

すぐ近くに居たキム内官さんたちにも怪我はなく、こういうことを言うのはどうかと思うが、でもラッキーだった。




事故現場は救急車や警察車両が来てすごい騒ぎになっている。
突っ込んだ車を運転していた人はかなりの年配の男の人で、ブレーキとアクセルを踏み間違えたんだろう、などと警察官たちが話していた。


「チェギョン、俺たちはこのまま行くぞ」

他国の皇太子が巻き込まれていたなんてことが判れば、余計に大事になるというのだ。
それもそうだと、私たちはこっそりその場を離れた。







結局また家に行き、父が驚愕する中、私はシン君の肘の擦り傷に絆創膏を貼った。

「でも一応精密検査を受けた方がいいわ」

そう言いながらも、私はまた眼に涙を溜めていた。
これで済んで良かったと思うだけで泣けて来るのだから仕方がない。

「フランスに戻ったらな」

シン君はそんな言い方をしたが、キム内官さんが首をぶんぶん縦に振っていたので、きちんと受けさせられるだろう。







その後、私とシン君はリビングでいつの間にか2人っきりになっていた。
自分の気持ちに気付いた私としては、少々気不味い。


そんな私を前に、シン君が口を開いた。

「心配してくれてありがとう、チェギョン。 嬉しかった」

優しい笑顔に心臓が音を立てて、そのせいで顔に血が上った。
が、それでもその気持ちは押し隠さなければならない。

「ううん、友人だから当然よ」

顔は赤いというのに、私は平然とそう言ったつもり、だった。
が、実際には私の声は上擦っていたのだ。



なのでというか思わず立ち上がると、シン君までが立ち上がってテーブル越しに私の手を掴んだ。

「はっ、離して!! ///// 」


つい先程、昨日の冷たい態度を後悔したばかりなので、シン君の手を振り解くことは出来なかった。
でも手を握られているとめちゃくちゃどきどきして、おかしくなりそうだ。


「チェギョン、昨日の言い訳をさせてくれ」

・・・言い訳・・・?






シン君は、“外堀を埋めた”とかではなく、ユル殿下とのことは気にしなくても大丈夫だ、ということを言いたかったらしい。
私たちが心を通わせてから反対されることのないように、先回りして牽制しておいた、ということだそうだ。


「ほんとにお前が好きだから、今度は俺の手で幸せにしたいし、俺が笑顔にさせたい。 でもその後で反対されたらまたお前を傷付けると思って・・・。 でも誤解させたならごめん。 悪かった」


真摯に紡いでくれる言葉にもしゅんとしたその表情にも、シン君の優しさを感じる。


「今度は大丈夫だと、安心してもらいたかっただけなんだ」
「・・・シン君」





皇太后さまの筋書きというモノがあり、それによると、先ず「元家族」として再会、その後「友好な友人関係」を築き、その後「徐々に大きくなったお互いへの想い」に気付き、「交際」に発展して、数年後「双方の家族の許しを得て婚姻」だそうだ。

それでももし国民の声が上がったら、上皇陛下が、自分が会見すると言ってくれたらしい。
全てはこういうことだった、彼女は悪くないのだからと。


それで全ての人が納得してくれるかどうかは判らないが、そこまで考えてくれていることは嬉しかった。




でもやはり素直にシン君の胸に飛び込むことは出来なかった。

「判った。 私もシン君のことは嫌いじゃないわ。 だから昨日言ってくれたように、皇太后さまの筋書きのように、先ずは“友好な友人関係”を築きましょう。 “交際”に発展するかどうかは判らないけど」


気不味さからの、精一杯の言葉だった。
でもそのことで、シン君はぱあっ!と顔を輝かせたのだ。


「ああ! ありがとう、チェギョン!」


シン君はその大きい両手で私の手を包んだ。
温かく優しく、力強い手だった。


多分この時には、私は心を決めていたと思う。
非難を受けてもシン君の傍に居たいと。



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30 Comments

ビオラ 

merryさま、こんばんは。お話の更新ありがとうございます。
シンくんが事故に巻き込まれた事でチェギョンは自分の心の奥底にあった気持ちに気付けましたね。シンくんの事が好きだと気付いたけど、素直に言えずに友人から。でも恋人に昇格するのは早そうですね。

  • 2020/08/08 (Sat) 22:21
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  • 2020/08/08 (Sat) 22:33
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  • 2020/08/08 (Sat) 22:45
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yurin

今度こそ

こんばんは^^v

シン君の怪我――
大したことが無くて良かったです^^v
事故現場は大変なことになったでしょうが…
その事故に皇太子が巻き込まれた
近くに元皇太子妃が居たと、報道されるのも面倒ですねv-164

チェギョンは――
漸く自分の気持ちに気づいたv-236
う~ん、蓋をしてたのを外したv-236かなv-221
自分のことを想って行動してくれたこと。
嬉しいけどまだ素直になれなかったけどv-222
シン君の笑顔に、心の中では決意したようですねv-218
お話の続き楽しみにしてますねv-352
今日はありがとうございましたv-354

hidedeeichan

こんばんは😊
この事故が無かったら肩書を気にしているチェギョンは本当の気持ちに気付かなかったし、シン君の本当の気持ちも“外堀を埋めたわけではなくチェギョンに安心してほしかった”というのが伝わらなかったですよね!
直ぐにはシン君の胸に飛び込めないチェギョン・・でも「非難を受けてもシン君の傍に居たい」という気持ちがあるのだから胸に飛び込むのもそう遠くはないかな🎶

  • 2020/08/09 (Sun) 00:12
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sai*****

こんばんは😊
事故に巻き込まれたけど、シンくんは、大した怪我もなく、肘を擦りむいただけですんで、本当によかった😊
この事故で、シンくんを失くすかもしれないという恐怖と、シンくんへの気持ちに、やっと気付きましまね😊
シンくんの『好きだから、今度は俺の手で幸せにしたいし、俺が笑顔にさせたい。』、『今度は大丈夫だと、安心してもらいたかっただけなんだ』…という『言い訳』を聞いて、やっと自分の気持ちに気付いたばかりのチェギョンは、まだ素直にシンくんの胸に飛び込むことは出来ないけど、『非難を受けてもシン君の傍に居たい』という気持ちがあるみたいだから、シンくんの胸に飛び込んでいくのも時間の問題かな😊
シンくんもきちんとチェギョンへの想いを伝えることが出来たし、チェギョンも、やっとシンくんへの気持ちに気付くことが出来たから、もう少しでシンくんとチェギョンのラブラブで幸せな2人が見られるようになるのかな✨

  • 2020/08/09 (Sun) 02:14
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  • 2020/08/09 (Sun) 02:33
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tiem

merryさん、おはようございます!
更新ありがとうございます。

チェギョン、びっくり仰天だよねぇ。
目の前でシン君が事故に。
シン君を捜しているチェギョン。
でもそのシン君の姿は見つからないんですねぇ。
必死にシン君の名を呼んでいたんだよねぇ。
そのチェギョンに声をかけたシン君。
双方がもう安堵かなぁ??
チェギョンの本音がここで現れたようねぇ。
今まで押しとどめていた感情が一気に。
そのシン君が取り敢えず、事故現場から移動をと。
ここでシン君の言葉バレたら大変だしねぇ。
自宅に戻って、傷の手当てをし、ここで再び昨夜の言葉足らずを補足したシン君。
もう大丈夫なんだよと言うことを。
皇太后様始め、皆がチェギョンを迎えると言うことを賛成してるということを。
批判が出たら陛下がガツンなんだよねぇ。
だから、チェギョン、シン君と一緒になっても大丈夫なんだよ。
もう気持ちを抑え込まなく手も良いんだよ。

  • 2020/08/09 (Sun) 06:16
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まあむ

おはようございます。
まずはシン君が無事で良かった。
読んでる私ですら、驚きと不安でいっぱいでしたから
目撃したチェギョンはなおさらでしょう。
でも、これが好機となりシン君への気持ちに
気づくことになったのだから不思議なものです。
子供のころは何でも正直に言動で表せたのに、
大人になるにしたがって色々と面倒なことが増え、
気持ちより優先事項が勝りがちで正直になれないことばかり…
今回、彼女がここまで一気に心を決めるまでに
至ったことは大きいですね。

  • 2020/08/09 (Sun) 06:47
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  • 2020/08/09 (Sun) 07:24
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  • 2020/08/09 (Sun) 15:04
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  • 2020/08/09 (Sun) 15:20
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  • 2020/08/09 (Sun) 17:55
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merry

merry

To ビオラさま

コメントありがとうございます。

事故でやっとチェギョンは自分の気持ちに気付いたようですね〜。
「友人」からですが、「恋人」になるのは早いでしょうね〜。(*´艸`*)

  • 2020/08/09 (Sun) 21:10
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merry

merry

To n さま

コメントありがとうございます。

肘の怪我で済んで良かったですよね〜。
おかげでチェギョンの気持ちもはっきりシン君に向いたようだし。
頭撫で撫で、いいでしょ〜〜〜〜〜っ。(*´艸`*)
やっぱ私たちってシン君寄り(笑)だからこういうことになると嬉しいですよね。(≧▽≦)
おばあさまのシナリオ通りに行きそうですよね〜。

  • 2020/08/09 (Sun) 21:22
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merry

merry

To ラプ さま

コメントありがとうございます。

シン君が事故に巻き込まれたことで、やっとチェギョンが自分の気持ちに気付きましたね〜〜〜。
これから近付けて行けますね。(*´艸`*)

  • 2020/08/09 (Sun) 21:24
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merry

merry

To yurinさま

コメントありがとうございます。

そ、事故現場はエライことになってるでしょうが、“皇太子”はあの場に居ないほうがいいですよね〜。
うん、蓋が外れたというのが正しいのかなと思います。
すぐに素直にはなれなかったけど、おばあさまのシナリオ通りになるでしょうね〜〜〜。(*´艸`*)

  • 2020/08/09 (Sun) 21:31
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merry

merry

To hidedeeichanさま

コメントありがとうございます。

ほんと、事故に巻き込まれたことはシン君にとってよかったかも。
チェギョンはやっと自分の気持ちに気付いたし、「非難を受けても」とまで思えるのだから、もう大丈夫ですね。(*´艸`*)

  • 2020/08/09 (Sun) 21:38
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  • 2020/08/09 (Sun) 21:51
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merry

merry

To sai*****さま

コメントありがとうございます。

シン君の怪我が大したことなくてよかったですよね〜。
おかげでシン君への気持ちに気付いたし、その胸に飛び込むのも時間の問題かもしれませんね〜〜〜。(*´艸`*)

  • 2020/08/09 (Sun) 21:57
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merry

merry

To わい さま

コメントありがとうございます。

ぷぷぷ、まだ少々固いですが、後は素直になるだけかな〜?
シン君の傍に居ればすぐかもしれません。(*´艸`*)

  • 2020/08/09 (Sun) 22:02
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merry

merry

To tiemさま

コメントありがとうございます。

てっきり事故でエライ怪我したと思ってたら意外と擦り傷だけでよかったです〜。
皇太子は現場に居ないほうがいいですよね。^^;
てことでチェギョンの家で「言葉足らずを補足」だって〜〜〜〜〜!(笑)
上手く行ったようで、よかったよかった。(≧▽≦)

  • 2020/08/09 (Sun) 22:14
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merry

merry

To まあむさま

コメントありがとうございます。

ほんと無事でよかった!
うんうん、好機になりましたねえ。
おおっ、ほんとほんとその通り!(≧▽≦)
立場を考えすぎてたチェギョンですが、これからは素直になれますよね。(*´艸`*)

  • 2020/08/09 (Sun) 22:18
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merry

merry

To と さま

コメントありがとうございます。

シン君を狙ったものじゃなくてよかったですよねー。
おかげでチェギョンも自分の気持ちに気付いたし。
徐々にシン君を好きになってたのに、立場を考えすぎて封じ込めてたのかも〜。^^;
うんうん、友人時間なんて少なくて充分!(笑)
って、次で終わりです〜〜。(*´艸`*)

  • 2020/08/09 (Sun) 22:27
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merry

merry

To し さま

おおっ、そうだったんですね〜。
それは楽しみですね〜〜〜。(*^▽^*)
いえいえ、コメはお気になさらず〜。

あ!そうでしたかっ。(私は忘れてました、すみません。^^;)
へええええええ、私引っ越してから(アメブロで判る方以外の)他所様にはお邪魔していないので判らないんですが、そうでしたか〜。

お待ちしています〜。(敵(笑)が起きました?(≧▽≦))
両方教えていただきたいです〜〜〜〜〜〜。(*^▽^*)

  • 2020/08/09 (Sun) 22:42
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merry

merry

To j さま

コメントありがとうございます。

シン君の怪我が大したことなくてよかったですよね〜。
もひとつ素直になれないチェギョンですが、シン君の胸に飛び込むのは時間の問題でしょうね。(≧▽≦)

  • 2020/08/09 (Sun) 22:45
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merry

merry

To ふ さま

コメントありがとうございます。

「緊迫感が、チェギョンの強固な線引きを決壊させ、蓋をしていた気持ちを表面化させるには十分だったようですね」
うんうん、そうだったようですね〜〜〜〜〜っ。(*´艸`*)
シン君の寛容さがチェギョンの安心に繋がるってイイですね〜〜〜。
そ、(珍しく)優しいシン君ですよね。(笑)

  • 2020/08/09 (Sun) 22:49
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merry

merry

To m さま

コメントありがとうございます。

シン君が事故に遭ったと思ったことで、やっと自分の気持ちに気付きましたね〜。
これからは皇太后さまの筋書き通りに行くでしょうね〜。(*´艸`*)

  • 2020/08/09 (Sun) 22:54
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  • 2020/08/09 (Sun) 23:41
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merry

merry

To し さま

おはようございます。
リク内容、じっくり読ませていただきました。

で・・・、最初に思ったのは、“鏡に取り憑いてる”のは「mirror」っぽいなということ。
いえ、これだけならなんて事ないんです。
が、“チェギョンが目覚めなくて夢を見続けている”のはsaoさま原案の「醒めない夢を・・・」そのものだなあということ。
そして、シン君でさえ気付いた“鏡台”のことに皇太后さまが気付かないのはおかしいのでは?ということでした。

リクをお願いして考えていただいたというのに、本当に申し訳ないんですが、このままでは無理かと・・・。💦
本当にすみません。(>人<;)
もうひとつの「コメディ」の方を教えていただけたらと思います。m(_ _)m
勿論、他に思いついたのがあればよろしくお願いします。(*^_^*)

  • 2020/08/10 (Mon) 08:11
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