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とある翊衛司の日誌


本日は、皇太子殿下の誕生日パーティーが、此処済州島の皇室リゾートで開催される。
王族の皆さまや皇室関係者が多数招待されていて、我ら翊衛司も気を抜けない。
人が多いので、それに紛れてよからぬ輩が忍び込んで来るやもしれないのだから。


殿下と妃殿下の到着はまだだが、招待客たちは次々に会場入りするために集まって来ている。
勿論招待状のチェックはされるので、持っていない人間など居るはずがない、はずだった。


ところが。

「え? 招待状が無い?」

チェックをしていた後輩の翊衛司が、入り口の警備と話していた私のところにやって来た。




受付に行くと、どうやら学生のようだった。
殿下の友人だろうか?

「だからヒョリンは俺の同伴者なんだ。 招待状が無いくらい何だよ!」

1人の背の高い学生が、偉そうにタメ口で受付の若い翊衛司に食って掛かっている。
君より背は低いが彼のほうが年上だぞ、坊や。

「君。 此処は学校ではない。 警備が厳しいことくらい判らないのか?」

私のほうがまだ背が高く体格がいいことで、その坊やは若干身体を引いた。

「俺たちはシンの親友なんだ。 さっさと通せよ!」
「このヒョリンもそうだぜ。 いつまで足止めさせるんだよ」

眼の大きい坊やと眼の細い坊やが唾を飛ばしそうな勢いで喋っていて、そのヒョリンとやらは偉そうに横目で彼ら2人を眺めている。
もう一人の小さい坊やはカメラを回していて、私はその小さい坊やに言った。

「坊や、此処を何処だと思ってる。 そのカメラを止めろ。 取り上げるぞ」

小さい坊やは慌ててカメラを切った。
が、眼の細い坊やは尚更私に怒ったのである。

「俺たちはシンの親友だと言っただろう! お前たちみたいなただの護衛とは違うんだ!」


なんと偉そうな小僧だ。
何処の小僧だ?

招待状をチェックすると、チャン航空の御曹司だった。
他の2人もそれぞれ大企業の後継者だ。

だから偉そうなのか。
これが後継者なら、彼らの会社の未来は無いも同然だな。


「とにかく招待状を持たない人間を入れるわけにはいかない」

そう言うと、眼の大きいイン坊やがその眼を見開いて怒った。

「じゃあシンを呼べよ! あいつがヒョリンを入れてくれるさ!」

眼の細いギョン坊やは笑っている。

こんなガキどもが殿下の友人だなんて溜息しか出ない。
が、多分本当のことだろう。



今私たちは受付から少し離れたところで話しているのだが、このイン坊やの大きい声で受付を通ろうとしていた王族たちがこちらを見ていた。

このままこのガキどもを此処で騒がせておくわけにはいかない。
が、どうにも殿下を呼ばなければガキどもが納得しそうになかった。
私たちも、いつまでもこいつらに構っている時間はないのだ。

殿下がどうするのかは判らない。
女とガキどもを中に入れるのか、それとも女だけ帰すのか、それとも・・・。



ガキどもの前で殿下に連絡を取ると、これでお前たちも終わりだな、とギョン坊やがせせら笑った。
どこまでも偉そうなガキだ。

従者3人を従えたようなヒョリンという女のことは、カン電子御曹司の同伴者ということなので、そちらへの問い合わせはしている。
どんな返事が来るのかは判らないが。




少ししてから殿下が現れた。

「シン! こいつらに何とか言ってくれよ!」
「ヒョリンを中に入れないって言うんだぜ!」

イン坊やとギョン坊やが捲し立てたが、殿下の返事は思いもしないものだった。

「彼らは俺たちより10歳以上は年上で立派な社会人だ。 こいつらとは何だ、敬語を使え!」

そう言って、先ず俺たち翊衛司に対してのガキどもの態度を改めさせたのである。


「それに、招待状が届かなかったという意味が判らないのか? 呼ばれていないということだ」

そう言われたというのに、でもヒョリンなんだぞ!とまだ馬鹿なことを口走ったのはイン坊やで、殿下はそんな彼を冷たく見据えた。

「だから何だ? 招待していないと言ってるだろう。 お前には耳が無いのか?」
「だがお前が喜ぶと思ったから・・・」
「俺が喜ぶ? 何故だ?」

その時突然女が口を開いた。

「だってあなた私を好きなんでしょ?」

その言葉に、私のみならず周りに居た翊衛司たちや、受付を終えて建物に入ろうとしていた招待客たちも驚いて足を止めたようだった。

が、殿下ひとりが冷静だった。

「何を勘違いしてそんな風に思い込んでいるのか知らないが、俺には妻が居る。 君はこの国の皇太子が不貞を働いていると言いたいのか?」
「割り込んだのはあの子のほうだわ! だってシンは私にプロポーズしたじゃないの!」

えええ!??





衝撃のひとことだったが、やはり殿下は冷静だった。
言うであろうことが判っていたかのように、殿下は笑った。

「あれはただの提案だ。 それが判っていたから君も即座に断ったんだろう?」




その後はガキどもが騒いだ。
お前断ったのか、俺たちにはOKしたと言ったじゃないか、この嘘吐きめ!

どうやら女は自分に都合のいいようにガキどもに言っていたらしい。





結局ガキどもと女はそのままソウルに帰った。
女はともかくガキどもはまだマトモで、嫌がる女を連れて引き下がったのである。







「チェギョン、行くぞ」
「待って、シンく〜ん」
「早くしろ」

毎朝殿下はそう言いながらも頬を緩めて妃殿下を待っている。
可愛くてたまらないようだ。





車内でのお二人の様子から察するに、あの時のガキどもはお二人に謝ったようだ。

「彼らと面識もなかった私にまで謝ってくれてびっくりしたわ」
「あいつらなりの気持ちだろ」
「良い子たちなのね」
「・・・」

あの時は「良い子」ではなかったかもしれないが、妃殿下にまできちんと謝罪したことは、殿下にも彼らにも良かったことではないかと思う。
おかげで殿下は友人を失わずに済んだようだから。



そう言えばあれから校内に配置されている翊衛司によると、あの女は私生児なのにお嬢さまのふりをしていたらしく、それがバレて、今爪弾きにされているそうだ。

「偉そうに私たちを見下してたくせに私生児なんだって!」

そこかしこでそう言われて陰口を叩かれているらしい。
まあそれは自業自得というものだ。





「じゃあまた昼にな」
「うん」

殿下は妃殿下を教室まで送り届けてから自分の教室に向かう。
そして昼休み、殿下と妃殿下は専用室で宮の弁当を食べるのだ。

その間翊衛司は外で待機なので、中では多分、仲睦まじくしていることだろう。
皇太后さまが待ち望んでいるという皇太孫さまもすぐかもしれない。






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