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ヒョリンの誤算(出会い編)


中3の時、せっかく芸術高校舞踏科に合格出来たというのに、高校の費用が出ないと母に言われて、「だったら死んでやる!」と母に吐き捨てて、私は家を出た。


この学歴社会で中卒なんて生きていけない!
母のように住み込み家政婦になれとでもいうのか!?

と、腹が立ったのだ。


だが本当に死ぬ気などなかった。
母の顔を見ているのが嫌で逃げただけだ。




電車を乗り継いで見たこともない小さな駅で降りると、運命の出会いが私を待っていた。
思わぬことに、一人の男の子と遭遇したのである。

・・・彼は皇太子に似ていた。




いや、絶対に皇太子だと確信した私は、物珍しさに付いて来た皇太子を意識しながら内心ほくそ笑んでいた。

皇太子が芸術高校に入学することはニュースで知っていた。
高校の費用さえ何とかすれば、私は高校で皇太子の友人になれるかもしれない。
いや、友人になってみせる!


私は付いて来る皇太子に微笑みかけた。
街を歩けばスカウトされるほど私は美しい。
皇太子だって満更でもないはずだ。


一緒に切符を埋めて、10年後一緒に取りに来ようと言うと、皇太子は返事をしなかったがにこっと笑った。

が、無理だろうことは判っている。
皇太子だと知らない振りをするためにわざと言ったのだ。
これで、私が気付いていないと思ったはず。



高校で劇的に再会するために私は名乗らなかった。
勿論皇太子の名前も聞かない。

皇太子だと知らずに出会って、高校で再会するのだ。
まさに運命的ではないか。




その後、私たちは駅に向かったのだが、皇太子は迎えが来るというので駅の前で別れた。

「また会えるといいわね」

必ず会えるわ。

「そうだな」

そう言った皇太子に手を振って、私は駅に入った。




そして私は無事芸術高校に入学した。
高校の費用はバレエのナム先生に頼んだのだ。

先生は私のバレエの才能を買ってくれていて、それに掛かる費用も出してくれている。

『私はヒョリンをプリマにしたいの。 お金は出世払いでOKよ』
『頑張ります』
『ヒョリンなら絶対大丈夫!』

そうだ、私は近い将来世界的なプリマになる。
だから皇太子の友人にもなれるはずだ。





学校では、皇太子は何処に居ても判る。
だが私はすぐには会いに行かなかった。
偶然の出会いが必要なのだ。



そんな時、家政婦の母と住み込んでいるミン家に出入りしているのをカン家の次男に見られていたようで、ある日その次男に話しかけられた。

「この家の子だね。 俺と同じ高校みたいだな。 よろしく、カン・インだ」
「ミン・ヒョリンよ」


都合のいいことにインは皇太子の友人だったので、彼と知り合えたことで、私は皇太子やその友人の御曹司たちに紹介してもらえたのである。

「俺の近所のミン家の娘のヒョリンだ」
「初めまして、どうぞよろしく」

皇太子は少し眼を見開いて私を見ていた。
また会ったわねと言いたいくらいだったが、あの時皇太子はお忍びだったので、私は初対面の振りをした。

これで私の印象は良くなったはずだ。


インたちが皇太子を呼び捨てにしていることもあって、学校だからと私もシンと呼んでもいいと言ってもらえた。

こうやって少しずつ皇太子、いやシンに近付いて行こう。
そしてそのうち、シンの特別な存在になれたらと思う。
私生児故に妃は無理でも、上手く心を掴んで皇室の援助を受けたい。

私はそんな計算をしていたのだ。
私生児故の処世術だ。




シンやインたちと話していることで周りの眼が変わり、私は優越感に浸り始めた。
ミン家に住んでいるので学校ではすっかりミン家の娘だと思われていて、私もそんな振りをするようになっていたのだ。





ところが2年になった時、私は乗馬クラブに誘われたのである。

「シンが作ったんだ。 お嬢様のヒョリンなら無条件で入部出来るぜ!」
「バレエばっかりじゃなく、偶には気晴らしも必要だろう? シンもよく来るし、ヒョリンも入ろうぜ」

ギョンとインの言葉は嬉しかったが、お金が要ることだ。
でももっとシンに近付くために入りたい。



私は祖母が入院したと嘘を吐いて、またナム先生に頼んだ。
1年以上も嘘を吐いているので、お金を出してもらうためにまた1つ嘘を吐くくらい何とも思わなかった。



先生にもらったお金で乗馬クラブの入会金や服など色々な物を揃えて、小さい頃父と一緒に乗っただけだとまた嘘を吐いて、インたちに指導してもらった。

上品なクラブで上品な人に囲まれて乗馬なんて、まるで本当のお嬢様になったようだった。
シンに出会えて良かった。





上達が早いとインたちに褒めてもらえた頃、シンが一人の女の子を乗馬クラブに連れて来た。
同じ芸術高校美術科の同級生で、シン・チェギョンというそうだ。

「乗馬は初めてなの、よろしくね、ヒョリン」

シンが連れて来たので王族かと思ったのだが、インたちの話では普通のサラリーマン家庭のようだ。
見下してしまうのを止めることは出来ず、私は顎を上げて彼女に言った。

「よろしく、皆に指導してもらってね」
「ええ」

馬にも乗れない庶民のくせに、シンとどういう関係なのだろう?

そのことで頭がいっぱいだった私は、その日わざとシン・チェギョンの前で颯爽と馬に乗った。
庶民には無理でしょと内心蔑みながら。




次の日、学校でインにシン・チェギョンのことを聞くと、彼女はシンの許婚だという。

「まだ高2なのに?」
「皇族は結婚が早いから、小さい頃に相手が決められていたらしい。 でも、#*・□、・・○&+・・。 ・&・・×▲・・」

あとのインの言葉は私の頭に入って来なかった。
庶民なんて嫌なのに皇太子だから断れないのだ、絶対にそうだ!




そう確信した私は、放課後シン・チェギョンを待ち伏せした。

「あなた随分調子に乗ってるみたいね」
「え?」
「シンはあなたのことなんて嫌いなのよ。 断れなくて仕方なくなんてシンが可哀想だわ」

シン・チェギョンは眼を丸くして、ぽかんと私を見ていた。
馬鹿みたいね、この子。

「庶民は庶民らしくしてるのね」

顎を上げて彼女を見下ろすようにそう言った時、私は突然両側から腕を掴まれた。

「な! 何なの!?」



いつもシンを守っている護衛だった。
この時私たちの近くにシンやインたちが居て、私の言葉に怒ったシンが私を拘束させたのである。






実は、乗馬クラブに入会した時に私の素性がバレていたらしい。
だがシンもインたちも、“令嬢だと嘘を吐いていた私生児だからだめだ”と今更言えず、知らずに誘ったインとギョンも悪いのだからと、そのまま入会させてくれたそうだ。

そしてやはり誘った責任があるので乗馬を教えてくれたらしい。

だが、初めてシン・チェギョンがクラブに来た時の私の言葉を聞いたインたちは、いい加減令嬢のふりは止めさせようと話していたようだ。

そこへ学校で私がシン・チェギョンを見下したことで、シンが怒ったのである。



シンはシン・チェギョンと想い合っていて、高校卒業後を前倒しして、来年高3の秋の婚礼が決定しているらしい。
私はそれを教えてくれたインの言葉を、全く聞いていなかったのだ。
馬鹿な自分に溜息も出なかった。


高校入学前に出会った時のことも、本当は皇太子だと判っていたんだろうと言われて、私は1ヶ月の停学処分を受けた。



シンからの罰はこれだけだったのだが、それを知ったナム先生の怒りを買ってしまい、そんな嘘吐きに繊細なバレエの表現なんて出来ないわ!と匙を投げられたのである。

「そんな子だとは思わなかったわ。 お金は返してもらうわよ!」



ナム先生の援助がなくなったことで授業料も払えなくなり、結局私は高校を中退した。
そして、皇室を敵に回したくないと怒ったミン家のご主人に家を出されて、私と母はソウルを離れたのである。





母の田舎に向かう途中の駅で暫し待ち時間があり、待合室のベンチに座っていた時、最初にシンに出会った時のことを思い出した。

どこで間違えたのだろう?
何故こうなったのだろう?

皇太子の友人になれたはずだったのに。






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