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花嫁の資格 16


「シン、聞いたか!? インに子供が出来たらしい!」
「それは良かった。 奥さんもほっとしてるだろうな」


長男の嫁の重責については、姉が散々愚痴っていたので知っている。
大病院の跡継ぎに嫁いだ姉が長男チャンを産んだのは、結婚後丸2年経った頃だったというのに、それでもまだかまだかと言われたらしい。

そんなにせっついても出来ないものは出来ないわ!と、姉が喚いていたのを何度もこの耳で聞いたのである。


だからというか心からの言葉だったというのに、ギョンは眼を丸くして俺の顔を覗き込んで来た。

「お前がインの奥さんのことを気遣うなんてな〜」
「お前が前に言ったんだろう? 色々言われてるみたいだって」
「そりゃ言ったけどさあ。 今までのお前なら“良かったな”で終わったはずだぜ」
「そうか?」

その時ギョンは、何を思ったか、あー!と声を上げた。

「どうし、」

“どうした?”と聞く前に、ギョンは俺の肩を掴んで叫んだ。

「お前結婚するんだな!」
「はあ?」
「妻にしたい女が居るんだ! だからそんなことに気が付くんだ!」


違うと言っても聞き入れず、その夜ギョンは、お前はいいよな〜〜〜〜!と大騒ぎして再び酔い潰れ、俺はまたギョンの部屋に泊まった。



が。
ギョンの言葉は図星だった。
俺はチェギョンが好きなのだ。


チェギョンがイ・ユルとデートしていたと聞いた夜は、眠ることが出来なかった。

相手は高校生だ、まだやっと18だ、未成年なんだ、俺はもう35のアジョシなんだと何度自分に言い聞かせても、チェギョンを好きだという事実は変わらない。



「はー・・・」

この歳になって自分の気持ちを持て余すことになるとは思わなかった。

相手は、アジョシは嫌だと言った高校生だ。
大人の女を口説くようなことも出来ないし、うっかり手を握ることも出来ない。
かと言って放っておくと、イ・ユルでなくても同級生の男に取られるかもしれない。

どうすればいいのかと悩むばかりだ。





とにかくマンションでの夕食以外に会う機会を作らなければと、俺はコンサートのチケットを用意した。

「クラシックコンサートに行こう。 情操教育だ」

母の手前と、チェギョンに“デートの誘い”だと気付かれないように、わざと“情操教育”と口にした。
なのでというかチェギョンは諦めたように逆らわなかったし、母も、行ってらっしゃいと笑顔だった。




当日、母があれこれ決めたらしくチェギョンは充分可愛かったが、もっと可愛くというか綺麗にしてやろうと、俺は友人ソヌの美容院に行った。
衣装の貸出もしているので、此処に来れば何でも揃うのだ。

「へええ〜〜〜〜〜〜、シンが女の子を連れて来るなんてね〜〜〜〜〜」
「いいから頼む。 もっと綺麗にしてやってくれ」
「OK〜〜〜〜〜っ」

ソヌの俺を見る眼が笑っているが、特に気にならない。
彼は口が固いから。



30分ほどで、チェギョンは「もっと綺麗」になった。
身体のラインが出るような細身のドレスで、むき出しの白い肩には薄いショールがかかっている。
細い項にかかる後れ毛までもが色気を放っていて、すごく綺麗だった。

「綺麗だ、チェギョン」

素直に口に出ていた。

「あ、ありがとうございます・・・。 ///// 」



帰りも来るから今度は元に戻してくれと言うと、ソヌは今度こそ大笑いした。
・・・失礼な奴だ。





「すごい! こういうのってボックス席っていうんですよねっ」

嬉しそうなチェギョンに、俺の頬も緩みっぱなしだ。
大人の女ならこの後酒でも飲んでそのままホテルだろうが、残念ながら相手は高校生だ。

『コンサートが終わったらすぐに帰って来るのよ!』

母に睨まれたこともあるし、ソヌのところで着替えたらすぐにマンションに帰らなければならないだろう。
本当に残念だが。


なので、せめてコンサートをチェギョンと二人で楽しもうと思っていた。

ところが。
なんとチェギョンは俺の隣で眠ってしまったのだ!

ボックス席で良かったとつくづく思った・・・。





帰りの車の中で、元の姿に戻ったチェギョンは小さくなっていた。

「・・・すみません」

結局チェギョンは、コンサートの間中ぐっすり眠っていたのである。
おかげでというか手を握れたのだが、そんなことを言う必要はない。

「まあ良い。 次に行く時はしっかり起きていろ。 いいな」
「はい・・・」

これで次のデートの約束が取れたと内心喜んでいると、チェギョンは、次もクラシックかと聞いて来た。

「何故だ? 嫌なのか?」
「施設でも同じように、教育の一環としてクラシックコンサートには連れて行ってもらいました。 今日は寝ちゃいましたが、嫌ではありません」
「なら何だ」
「・・・アイドルのコンサートには行ったことがなくて。 そういうのなら嬉しいなあ、と・・・」
「・・・」






「まーーーーーーーーーーー!!! シンが○○○のコンサートチケットを買うなんてーーー!!!!!」
「・・・」

盛大に騒いでいるのは姉だ。
ネットで手に入れたチケットを見られてしまったのである。
如何にも若い子が喜びそうなものなので、チェギョンと行くのだとすぐに感付いたようだ。

「シン! 周りは若い子ばかりなんだからあなたも若作りして行くのよっ」

きゃあきゃあ喜びながらそう言って、姉は俺の肩をバシバシ叩いた。




そのコンサートは夏休み中なので、それまで放っておけないと、夕食に行く回数は減らしてチェギョンと外食の機会を持った。
勿論母が付いて来るはずもなく、俺はチェギョンと二人のデートを楽しんだのである。

優しくスマートに接して常にチェギョンを気遣って。
俺としては精一杯なのだ。

チェギョンがどう思っているのかは判らないが・・・。




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