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花嫁の資格 15


ギョンは学芸員と別れたそうだ。
だからといって、妹に近付くことは出来ないらしい。

「それはそうだろう。 姉の恋人だった35の男に、20歳の大学生が興味を持つとは思えん」
「35って言うな!」
「あ、そう言えばお前この前36になったんだったな」
「わーーーーー!!! 言うな〜〜〜〜〜〜!!」


インにも愚痴を零したようだが、20歳や21歳の子が36のおじさんに振り向くと思うか?と言われたらしい。

「インの言う通りだ」


そう同調しながら、もしチェギョンのことがバレたら、ギョンに何を言われるだろうと考えてしまった。

だがその話は、チェギョンの“アジョシは嫌だ”宣言でなくなったのだ。
家族は未だそのつもりのようだが、肝心のチェギョンにその気はない。


「仕方ないじゃないか〜〜〜〜〜! 好きになったんだから! ああ〜〜〜っ、ガンヒョーーーーーン!」


酔いが回って来たギョンは、とうとうその大学生の名を呼びながら泣き始めた。

「泣くなギョン、恥ずかしい。 置いて帰るぞ」
「だめだ! ガンヒョンがどんなに可愛いか聞いてくれ!」



その後ギョンに延々と、そのイ・ガンヒョンがどれだけ可愛いかを聞かされた。

だが当然のようにギョンに靡いてくれるはずもなく、大学で待ち伏せすると、
『姉と喧嘩したのなら私から電話しましょうか?』
などと言われるらしい。

・・・そりゃそうだろう。




結局その夜は、酔い潰れたギョンを彼の部屋に送って行くはめになってしまってそのまま泊まり、朝着替えのために家に帰ると、車の音を聞き付けたらしい祖母が、玄関で仁王立ちしていた。

「何処で誰と何をしていた」
「酔い潰れたギョンを送ってそのまま泊まりました」
「ほんとね!?」
「ほんとですよ」

なんで35にもなって祖母にこんな風に叱られなければならないのかと思うが、昨夜はギョンのイビキが五月蝿くて眠れず、逆らう元気もなかった。





会社での昼休み、母から電話があった。
夕食を食べに来いという。

『チェギョンの誕生日から、もう半月よ! 今夜来なさい!』
「はい」

どうにも、チェギョンが来てから祖母や母が煩くなり、俺の自由な時間がないように思う。





その夜マンションに行くと、思わぬことに“イ・ガンヒョン”という名前を聞いた。
チェギョンの高校に教育実習に来たらしい。
昨夜酔っ払ったギョンも、ガンヒョンは教師になるようだと言っていたし、年齢も同じだし、もしかしたら同一人物かもしれない。


チェギョンはそのガンヒョンと美術館に行くらしい。
その時は母も、バスで行くというチェギョンに、気を付けてと言っただけで終わったのだが、翌日再び母から電話があった。

『美術館に送って行ってあげなさい』

・・・言われるだろうと思っていた。





イ・ガンヒョン本人かもしれないとギョンを誘ってみたのだが、彼は行かないと言った。

『その美術館に行くのなら多分絶対ガンヒョンだ。 だが俺は行かない』
「なんで?」

せっかく会えるのにと思ったのだが、ギョンは怒ったように言った。

『その美術館には学芸員としてジュヒョンが居るんだ。 彼女に会いに来たと思われるだけだ!』
「ああ、そういうことか」


ならばチェギョンを送ったついでに、ギョンの元カノと片思いの相手の顔を拝んで来ようか?
ただの好奇心から、俺はそんなことを考えていた。





そして当日、母はどうやら俺が送って行くことを伝えていなかったようで、眼を丸くしたままのチェギョンを乗せて、俺は車を出した。
・・・それはいい。
良くないのは、チェギョンの服だ。


夏だからか上は薄いTシャツ一枚だし、下はミニスカートだ。
運転手じゃないぞと言って助手席に乗せたのはいいが、そのせいでチェギョンの白い足をまともに見て、俺は憮然としてしまった。

まだ俺だから良かったようなものの、こんな格好で男の助手席に乗る気が知れない。



白い足にイライラしながらも、何でもないふうを装って運転していたというのに、チェギョンは俺に話しかけて来た。

「あの、帰りは先生と一緒なのでバスで帰ります」
「送ったらさっさと帰れってか?」

口が勝手に喋って内心驚いたのだが、そのせいでチェギョンは萎縮してしまったようだ。
すぐに冗談だと言ったが、どうやら完全に怖がらせた。



その後は俺もチェギョンもだんまりで、やっと美術館に着いた時は、チェギョンもだろうが俺もほっとした。


が。

チェギョンを待っていたのは男だったのである。


だからミニスカートなのかと再びイライラした。
なので俺は、祖母たちが心配するはずだという理由をつけて、駐車場に車を停めて二人に近付いた。

「チェギョン」




帰ったんじゃ?と顔に書いてチェギョンは俺を見たが、それには気付かないふりをした。

「教育実習の先生というのは彼か?」

違うことは判っていたが敢えてそう聞くと、チェギョンは顔の前で小さく手を振った。

「あ、いえ、ユル君はクラスメートです」
「クラスメート? なら受験生じゃないか。 もう6月だぞ。 デートなどしてる時間はないはずだが?」

チェギョンではなくユルとやらを睨むようにそう言った時、ごめんなさい!と声が聞こえて来た。





「あなたはどなたですか? この子たちに何か御用でしょうか?」

イ・ガンヒョンは、得体の知れない男を睨むような眼で、胡散臭そうに俺を見た。
教育実習と美術館に行くというのは本当だったのかと思いながらも、俺は自己紹介した。

「俺はイ・シン。 チェギョンの保護者だ」
「「え??」」
「アジョシ!」





俺がそう言ったことでそれぞれ自己紹介が始まった。

イ・ガンヒョンはやはりギョンが好きな子のようで、チェギョンのクラスメートのイ・ユルは彼女の従兄弟だそうだ。
俺はこの時になって漸く、彼らがチェギョンの事情を知らなかったのではないかということに思い至ったのだが、彼らは知っていた。

「隠していてもいつか判ることなので。 今までもそうでした」

チェギョンは明るくそう言ったが、そんな風に言えるまでが辛かったのではないかと思った。

ただ、学校に提出した書類では、チェギョンの保護者は祖母になっている。
だからと言うか、チェギョンは俺のことを、“今同居しているおばさまの息子さん”だと言った。

・・・まあ、その通りだが。




「じゃあ保護者同伴ということで、イさんも一緒に入りますか?」

イ・ガンヒョンはそう言ったが、実は俺は絵などさっぱり判らない。
一緒に回っても俺自身がつまらないだろうことは想像出来たし、イ・ユルと二人ではないのならと、俺は結局そのまま退散した。





ところがその夜、姉から電話がかかって来たのである。

『チェギョンがデートしてたわよ! あんたどうするつもり!?』

リュジョンデパートでチェギョンを見かけたらしい。
どうするつもりと言われても困るが。

「教育実習の先生も居ただろう?」
『ううん、男の子と二人だったわよっ。 チェギョンったら可愛い格好しちゃって〜〜〜〜〜』
「・・・」


あの格好でイ・ユルと二人だったのか?

姉の電話をいつ切ったのか憶えていないほど、俺は何やらショックを受けてしまっていた。





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