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花嫁の資格 12


日曜日には、時々スニョンたちと出かける。

ヘジャさんやユソンさんたちにも色んなところに連れて行ってもらったが、お金持ちのご婦人が行くような高級なお店ばかりだったので、同じ年の女の子と行く場所は初めてと言ってもよくて、すごく楽しかった。

映画館や遊園地、若者がいっぱいの街中を歩くのも、それだけで楽しかった。




あっという間に4月になり5月になった頃、スニョンが嬉しいことを言ってくれた。

「チェギョン、随分訛りがなくなって来たわね」
「ほんと!?」
「うん」

スニョンが言うには、入学した頃はまだ独特のアクセントがあったらしいが、2ヶ月経った今、ふとしたことでもきちんとソウルの言葉で話せているらしい。

気を付けてもいるが、日々チェ秘書さんに言い直しさせられているおかげだろう。

良かった。
来年デパートに就職するには、訛りは出来るだけ無いほうがいいだろうから。




ソヒ先生とは時々連絡を取っていて、高校を卒業したら院長先生の実家であるリュジョンデパートに就職したいと伝えている。
“JJグループに就職出来るんじゃないの?”と言われたが、卒業後もお世話になるなんて有り得ない。

そう言うと、ソヒ先生は電話の向こうで笑った。

『判ったわ。 でも卒業するのは来年だから、ゆっくり考えなさい』
「ありがとうございます、ソヒ先生」

卒業後のことが決まれば、あとは高校生活を楽しむだけだ。




そして5月のある日、ヘジャさんが唐突に私に言った。

「チェギョン、あなたの誕生日パーティーを開きましょう」
「え?」

そんなことを言われるとは思ってもいなくて、咄嗟に返事も出来なかった。




私に家での誕生日パーティーの思い出はない。
5歳の頃までは両親が居たので、お祝いをしてもらったと思うが、憶えていないのだ。

親戚の家に居た頃は、わかめスープすら出て来なかった。
彼らは私の誕生日など知ろうともしなかったのである。

でも施設では、同じ5月生まれの子供たちと一緒のパーティーがあった。
ソヒ先生がいくつもケーキを焼いてくれてわかめスープもあって、皆でクラッカーを鳴らしておめでとうと言い合って、生クリームが乗ったケーキを食べた。

それが私の誕生日パーティーだったのだ。


が、今年は私一人の誕生日を祝ってくれるという。
本当に?



口に出せなかった問いに、ヘジャさんが答えてくれた。

「私たちが家族で祝うのは夜にして、昼間はお友達を呼びましょう。 スニョンちゃんとヒスンちゃんだったわね。 二人を此処に呼んで祝ってもらうのよ。 ユソンが付いていてくれるわ」
「・・・おばあさま」

いつもは、“奥様”と言わないように気を付けながら“おばあさま”と呼ぶのだが、この時は自然にそう呼んでいた。

「満18歳になるのね。 可愛くて良い子に育ったわね、チェギョン」

私の頭を撫でるヘジャさんのその手がその言葉が、とても優しくて温かくて、涙を止めることは出来なかった。


ヘジャさんの胸はとても柔らかく、私はその胸で嗚咽を漏らした。





此処に来て初めて、連れて来てもらえて良かったと思えたのに、次の日、ヘジャさんは家に帰ると言った。

「あなたの誕生日が済んだら家に帰ろうと思うの。 いつまでも私が此処に居たらあの人が心配するのよ」

年なのだからと、会長が心配しているらしい。
それは判る。
ヘジャさんが此処に住み始めてから、週に一度は看護師さんが来ているから。

「それにチェギョンだって、朝起きた時に私が倒れてたら嫌でしょ?」
「え!?」

確かに、昼間は家政婦さんが来てくれているので心配なのは夜だが、そんなことを言われると余計に心配だ。





その次の日アジョシが夕食を食べに来た時、ヘジャさんは帰ることをアジョシにも伝えていた。

「私は家に帰ります。 でもチェギョンを一人にするのは可哀想だから、シンが此処に来る?」
「は?」

え? そうなの?

「元々そのつもりだったでしょ」

最初チェ秘書さんもそんなことを言っていたなと思いながら、ちらちら二人を見ていたが、結局その話はこの時に決定されなかった。



私がアジョシは嫌だと言ったことで、結婚話は白紙になったはずだが、ヘジャさんたちは諦めていないフシがあるとは思っていた。

でもならば、アジョシとの同居は勘弁して欲しい。
私が襲われないという保証は何処にも無いのだから。




そして私が嫌がることが判っていたのか、今度はユソンさんが此処に住むことになった。
ご主人を放っておいていいのだろうかと思うのだが、家事は家政婦さんが居るので心配ないという。


「誕生日パーティーの時には、お義母さまと入れ替わりに私が朝から来るわ。 一緒に準備しましょうね」
「はい、おばさま」

ユソンさんのことは“おばさま”と呼ぶようになっている。
最初、“お義母さまと呼んで!”と言われた時は驚いたのだが、ヘジャさんが、いくらなんでもそれは気が早いと諭してくれて、“おばさま”になっているのである。





誕生日当日は楽しかった。
朝ユソンさんとケーキを焼いて、他にも料理を作り、スニョンとヒスンにもそれを振る舞った。
おめでとうチェギョン、と3人が声を揃えてくれて、それだけで泣きそうなくらい嬉しかった。


「これからも私たちのチェギョンをよろしくね」

スニョンたちに言ったユソンさんのその言葉に思わず泣いてしまいそうになって、ジュースを取って来ると言ってキッチンに向かった。



“私たちのチェギョン”なんて、誰にも言ってもらえなかったのだ。
トレーを手にすることも出来ずに涙を拭いていると、ユソンさんが来て、私を抱き締めてくれた。

「ありがとう、チェギョン。 ウチに来てくれて」
「・・・おばさま」
「大好きよ、私のチェギョン」

涙は決壊した。




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