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花嫁の資格 10


次の日の夕食時には、会長とユソンさん、アジョシのお姉さんでヘミョンさんとそのご主人のハン・ジョンホさん、チャン君とゴン君という子供たち、それにアジョシも来て、総勢9人でテーブルを囲んだ。

チャン君とゴン君を見て、施設の子供たちを思い出した。
あの子たちは元気だろうか?


こんなに大勢で食事なんていつ以来かしらとヘジャさんが言っていたが、私は別に大人数だとは思わない。

親戚の家に居た頃は、大きくなるにつれて私一人で食べることが多かった。
が、施設では常に20人以上でわいわい食べるのだ。
小さい子の世話で自分が食べ損なったこともあったが、楽しかった。


食事は大勢で食べるほうが楽しいのだ。
だから今も楽しい。
ゴン君が私の膝に座っているのも嬉しい。



私の与り知らない昔のことで償いなんてとんでもないと思うが、この人たちと知り合えたことは素直に嬉しいと思っている。
もしこの先何かがあっても、この人たちが私を売るようなことはしないと思うし、知り合えて間もないというのにそう思えることが、信じることが出来ることが、良かったと思う。


でも、このままお世話になるわけにはいかない。

皆さんはまだ、アジョシとのことを諦めていないような節があるが、親子ほど年が違うお金持ちの専務と孤児なんて有り得ない。



ヘミョンさんに揶揄われているアジョシのことは、悪い人ではないと思っている。

此処に来た時にアジョシは私のバッグを捨てたが、写真など大事な物はきちんとテーブルに置いてくれていた。
財布は中のお金だけになっていたが、その後、その代わりのように可愛い財布が置かれていたのである。

中身がたくさん増えていたことは置いといて、捨てて放ったらかしにしないだけマシというか、それだけ余裕があるということだと思う。
今までの親戚なら、多分そのままにされていただろうから。


が、やはりあのアジョシとの結婚は嫌だ。


高校だけ行かせてもらって、院長先生の実家のデパートに就職したい。
そうすれば一人で暮らせるようになる。

働き始めたら少しずつヘジャさんたちにお返しすればいい。
それまで甘えよう。
ヘジャさんの気も済むだろうし。


私は、彼らと食事をしながらそんなことを考えていた。





会長たち7人を見送って、後片付けも終わってヘジャさんも部屋に入ったのを見てから、私も部屋でほっとしてベッドに腰掛けた。

あのまま施設に居たら、再びこんな気苦労はしなくて済んだだろうと思うと、つい溜息が出そうになる。
だがもう後戻りは出来ないのだ。






アジョシに連れて来られてからの半月ほどはあっという間に過ぎた。
ヘジャさんやチェ秘書さんに色々教えてもらい、いよいよ高校へ編入する日が来た。


保護者代わりのチェ秘書さんが付いて来てくれて、校長先生や担任の先生に挨拶をした。
私はパク・ヘジャ会長夫人の遠縁の孫娘ということになっていて、保護者欄にはヘジャさんの名前がある。

学校を変わることなどしょっちゅうだったので、転校だろうと編入だろうと緊張することはない。
大人しく過ごすだけだ。




「シン・チェギョンです。 よろしくお願いします」



転校するたびに、アクセントが違うとか笑う子は必ず居た。
小学校低学年の頃はそれが恥ずかしかったり笑われて悲しかったりしたが、こちらが過敏に反応すると、そういう子たちは余計に私を笑って揶揄うのである。

何度も転校を繰り返して何度もそういうことがあって、私は無反応を貫くようになった。
すると、その子たちも何も言わなくなるのだ。
子供なりに身に着けた処世術だ。

勿論、私の訛りなど気にせず話しかけてくれた子も居た。
仲良くなった頃に再び転校することになるのだが。



此処ソウルでも同じだろうと思っていた。
が、都会だし高校3年だからか、私を見て笑うような子は居なくて、少し安心した。






「チェギョンって、昔○○小学校に居たでしょ!」

休み時間になり、前のほうの席の女の子が私に話しかけて来た。

○○小学校?
そう言えば1年くらい通ったかも。

「私よ、キム・スニョン! 憶えてない? 一緒に夏祭りに行ったじゃないのっ」
「あ・・・!」
「思い出した!?」
「うん」
「久し振り〜〜〜〜〜〜〜〜っ」


彼女はキム・スニョン。
○○小学校4年生の時、前の席だった彼女と仲良くなり、夏祭りがあるから一緒に行こうと誘ってもらって、その時お世話になってた家に迎えに来てくれたのだ。

その家の人たちは、特に私に優しくはなかったが怒ることもなかった。
ただ、ご飯を食べさせてくれたのである。




「今はソウルの親戚に?」

今まで、転校して暫くすると殆どの生徒が私の事情を知っていたので、当時スニョンも知っていて、だからかそう聞いて来た。

「親戚じゃないけど知り合いの人にお世話になってるの」
「そう。 ウチはね、父の転勤で3年前ソウルに来たの」

スニョンはこの時それで話を終えて、これからよろしくねと笑ってくれた。




スニョンと再会出来たことで、私は彼女の友達ユン・ヒスンとも仲良くなれた。

「あのマンションに住んでるの? すごいわね〜っ」

二人はそう驚いているが、行きたいとは言わない。
私の事情を慮ってくれているのだ。
優しい子たちで良かった。





登校し始めたことで、チェ秘書さんは平日の夕方2時間ほどになった。
言葉遣いや漢字を教えてもらっている。

「お休みの日はお友達と出かけたいでしょ?」
「ありがとうございます、おばあさま」

勿論毎週出かけるようなことはしないが、今まで友達と遊びに行くなんて殆どなかったので、スニョンたちが居る今、それは素直に嬉しい。





アジョシはあれからも時々夕食を食べに来る。
偶に高校のことも聞いてくれるが、俺の頃の試験はとか昔のことを話すのだ。

「受験勉強はしてるのか? 大学は必須だぞ」
「はあ・・・」

行く気のない私は曖昧な返事しか出来ない。

そんな私に、アジョシは大学入試の話をするのだが、それについてヘジャさんが口を挟むのである。

「そんな20年前のことを言ってもチェギョンには判りませんよ」
「20年も前ではありません、18年ですっ」

・・・いや、そんなに変わらないと思うが。

どちらにしても、私が生まれる前の話だ。
それを口にすることは出来なかったが。





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