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参拾伍 10


コン内官が病院から持ち帰った事実は、ヒョリンの自殺は狂言だったということだった。
思った通り、錠剤の成分は容器に記されている成分の3分の1ほどだったのである。

キム病院長はコン内官に、発見が早かったので助かったと答えたらしいが、宮の内官だと知った看護師が、こっそり成分のことを話してくたれたそうだ。

『キム院長はご親戚に王族の方がいらっしゃるので、皇室の方に嘘を吐くのはどうかと思って』
と、看護師は言い訳していたらしい。



「そのことで調べてみますと、キム院長はソ王族の親戚でした」
「ソ王族って恵政宮さまの実家の?」
「はい」
「・・・」



後に判ったことだが、この看護師はキム院長と不倫関係にあり、妻と別れて君と結婚する、などと言われていたらしい。
が、この頃キム院長の奥さんが妊娠したことで、看護師は自分を弄んだキム院長を許せなかったそうだ。




救急車が連れて行ったのがソ王族の親戚であるキム総合病院だというのが引っ掛かって、すぐに消防に問い合わせると、学校から一緒に救急車に乗り込んだ付き添いの男がその病院を指定したらしい。

誰だろう?
だが、学校に居たのなら防犯カメラに映っているかもしれない。



そして、学校の防犯映像を調べていた母上によって、その男のことも判明したのである。





「ミン・ヒョリンをその病院に連れて行ったのは、宮の元内官だったペク・チュンギの息子のペク・チュンハのようです」

その夜、母上は東宮殿に来てそう教えてくれた。
ヒョリンとともに救急車に乗り込む時の映像があり、おばあさまがその男を見て間違いないと言ったそうだ。

ペク・チュンギというのは昔ス殿下付きだったそうで、此処でもそちらが絡んでいることに俺たちは疑惑を持った。


父上は王族会との話し合いで俺の退位を認めたらしい。
離婚発表と同時に退位の発表をすることも決めたようだ。

「先に調べるということをせず、記事に踊らされてそんなことを公表すれば、陛下のみならず皇室が恥をかきます。 なのにどういうつもりなのか」

こんな騒ぎのせいか、母上は父上に対して辛辣だ。


「それと、そのこともですがこちらも重要です」

母上が出した映像には、ユルとヒョリンが映っていた。
コン内官も俺の後ろから覗き込んでいる。

「此処はA棟ですか?」

最上階にある、屋上に続く階段の踊り場のようだった。

「そうようです。 義誠君はミン・ヒョリンと話をしているのですが、これには音声は入っていません」

ユルは何かをヒョリンに渡しているし、二人が何を話しているのかは判らない。
が、ヒョリンの唇の動きが映っていたので、ヒョリンの言葉は判ったそうだ。


『半分も飲んで大丈夫なの?』
『ほんとね? 私死ぬのは嫌よ』
『判ったわ。 昼休みに飲むわ』


そしてその場を離れるヒョリンの手には、今日の睡眠薬の容器があったのである。


「・・・」

もう言葉もなかった。
ユルがヒョリンにあの薬を渡していたのだ。

「ユルはどういうつもりで・・・」



母上は、このことをおばあさまや父上姉上にも伝えて、ユルに話を聞くと言った。

「幸い離婚発表が延期されたので、その間に義誠君を問い詰めましょう」





その後俺はチェギョンに電話をした。
チェギョンは、俺が嫉妬するほどユルとよく話をしていたので、何か聞いていないかと思ったのだ。
すると、思いもしないことを言われた。

『ユル君は、シン君とヒョリンのことをよく知ってたわ』
「は?」

なんと俺の誕生日パーティーの時、俺とヒョリンは2年付き合ってるとか、ヒョリンが乗馬クラブに入ったのは1年前で、俺が入れたとか、そんなことを言われたらしい。

付き合っていたという認識は俺にはなかったが、乗馬クラブのことは本当だ。
が、俺はユルにそんな話をしたことはない。

もしかしてヒョリンに聞いたのか?と思っていると、チェギョンは更に驚くことを言った。

『それから、シンのことを1番よく知ってるのはヒョリンだとか・・・、その、君はシンのタイプじゃないとか・・・』
「何!?」

なんでユルはそんなことを!?

「ヒョリンは結局俺のことなんて全然理解してないし、お前はどストライクで俺の好きなタイプだ!!」

思わず叫ぶと、チェギョンは電話の向こうで一瞬黙ったものの、すぐにくすくす笑った。

『うん、判った。 ありがと』
「俺を信じてくれるか?」
『うん。 シン君を信じるわ』

心底ほっとした。



従兄弟のユルがどういうつもりでチェギョンにそんなことを言っていたのか。
俺の退位を狙っているが故だろうか?
皇太子夫妻の不仲を狙ったか、皇太子のスキャンダルを狙ったか。

此処まで考えて、急にタイでのことに気付いた。
ヒョリンのことをタイの新聞社にリークしたチェ・ジノ局長は、もしかしてユル関係、つまり恵政宮さま関係かもしれないということに。


すぐにそれをコン内官に伝えると、そちら方面での調査もすると言ってくれて、その後はインたちにも、ヒョリンが飲んだ薬の成分のことを話した。

「それを何処から入手したのかも判ったんだが、今はまだお前たちには言えないんだ。 済まない」

この言葉で、そのことについてインたちはそれ以上追求して来なかった。

『ヒョリンの狂言自殺のことはネットに上げていいのか?』
「それは少し待ってくれ」
『早いほうがいいぞ』
「・・・そうだな」

新聞やテレビで、実名こそ出ないがヒョリンの自殺未遂はニュースになっていて、皇太子のせいだという声は大きくなっているのである。





碌に眠れないまま朝になり、上殿に行くと、父上が消沈していた。
なんとチェ局長は亡きス殿下の友人だったらしく、父上も何度か会ったことがあるそうなのだ。

ということは、やはりユルたちは俺を追い落とそうとしているのかもしれない。


おばあさまがそれを知ってユルと恵政宮さまの復位はしないと言い始め、今日のうちに二人を宮に呼んでおばあさま自ら話を聞くそうだ。

「昨夜コン内官に恵政宮と義誠君がイギリスに行った理由を聞いた。 故に私が二人に話を聞き、場合によっては再びイギリスに帰す。 良いな、ヒョン」
「はい、母上・・・」

父上は肩身が狭そうだし、母上は何やらほっとした表情を浮かべている。
姉上は俺をちらちら見ながら口パクでごめんねと言っていた。




この時は詳しいことを聞けなかったのだが、この後俺と姉上は母上の部屋で事情を聞かされた。

「巻き込まれた太子が何も知らないというのはおかしいですからね」

そして、20年以上前からのことを聞いたのである。




父上とファヨンさまが昔恋人同士だったこと、皇太子妃になりたくてス皇太子に乗り換えたファヨンさまだったのに、ス殿下が亡くなられたことで再び父上に言い寄り、それを当時の皇帝に見つかってユルともどもイギリスに行ったこと。

「外国に行くなら援助すると言われてイギリスに行ったようです」


そして今になってそれを知ったおばあさまはショックを受けていたらしいが、自分が何とかしなければと思っているそうだ。


「陛下は皇太后さまに散々叱られていました。 見ているのは面白かったですよ」

俺と姉上が部屋に行く前に、おばあさまに叩かれながら、父上は正座して二人に謝罪したらしい。
恵政宮さまとのことを知っていた母上は、それを見て少しは胸のつかえが取れたと言っていた。




母上の部屋を辞去してから、姉上が俺に謝って来た。

「お母さまに叱られたわ。 ごめんなさいシン。 私変に思い込んでたわ」
「いや、判ってくれたならいいんだ」
「離婚がナシになればいいわね」
「ああ」



この時は俺も、もしかしてという期待が大きくなり始めていた。
が、その後再び思わぬことが起こったのである。



ヒョリンの母親が娘の嘘や自殺未遂にショックを受けたようで、自室で遺書を遺して首を吊ろうとしたそうだ。
そのことでミン家の主人が哀れに思ったらしく、ヒョリンを養女にするとテレビカメラに向かって宣言したのである。

「ヒョリンはもう私生児ではありません。 私の娘です。 ミン家の娘です!」





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