FC2ブログ

参拾伍 9


ヒョリンは高校のトイレで薬を飲んだらしく、見つかったのが早くて命に別状はないそうだ。
が、自殺しようとしたことで、嘘吐きだと言われ始めていたヒョリンは憐れみの対象になり、再び俺に非難の眼が向けられたのである。



インから電話が来て、丁度登校していた彼らはヒョリンを病院に運ぼうとしたそうだが、先に救急車が来たらしい。
早いなと思いながらもその救急車を追い掛けて、3人で病院に行ったようだ。

「何処の病院なんだ?」
『最近出来たキム総合病院だ。 でもまさか見舞いになんて行くなよ、シン』
「そんなつもりはない」


見舞いという気は無いが、誰かを行かせるつもりなのだ。
ヒョリンが心配というよりも、どんな薬なのか知りたかったのである。

それはインたちも気になったようで医者に聞いたそうだが、詳しくは教えてもらえなかったらしい。

『トイレに落ちてた容器に残ってたのは半分くらいで、ほんとに半分を全部飲んだみたいだった』

だがファンが言うには、それは睡眠薬だったので、それの中身を半分も飲むと本当に命が危ないというのだ。

『でも幸いというかヒョリンは助かってる。 ちょっと不思議だよ』
「・・・」


確かにそうだ。
大体、あの傲慢なヒョリンが、俺に突き放されたのが原因で自殺など信じられない。
もしかしたら容器の表示とは中身の成分が違うのだろうか?
そうなら、何としても調べたいものだ。

が、高校生が、それも友人だったヒョリンが狂言自殺をしようとしたとは考えたくもないのだが。



その時コン内官が部屋に飛び込んで来た。

「殿下! タイから報告が来ました!」




タイの新聞社に匿名で情報が齎されていたらしい。
<外交で訪れる韓国皇太子の恋人が、皇太子に会うためにタイに行く>と。

ヒョリンの写真付きで、記者たちは半信半疑ながらも空港でヒョリンを待ち構えていて、インたちと一緒に現れたヒョリンを見て、投書は本当だったのだと2日ずっとヒョリンを追っていたそうだ。
勿論ホテルにも付いて来ていたそうだ。

「・・・そこへ私がのこのこと現れたわけですか」

再び後悔したのだが、それよりもその匿名情報の出処が問題だ。

「それですが、我が国の新聞社の局長をしているチェ・ジノという男からでした」

足跡を辿って突き止めたらしい。
が、そのチェ局長は海外に居るので、彼を追求すべくすぐに人を遣ったそうだ。

「急がせたので、明日にも彼と接触出来るかと思われます」
「・・・それも待つしかないですね」




病院へは私が行って聞いて来るとコン内官が言ってくれて、でも殿下絡みだと思われたくないのでと、わざわざ私服に着替えて眼鏡をかけて宮を出てくれた。

その後、俺は上殿に呼び出されたのである。





「なんということだ!」

父上は激高し、責任を取って皇籍を抜けろ、憐れなミン・ヒョリンとともに何処へでも行け!と俺に怒鳴った。

おばあさまは大変なことになったと言うだけだし、姉上は、ヒョリンと二人で留学しなさいとまたおかしなことを言い始めた。

「私はチェギョンを愛しています!」

二人にヒョリンとのことを言われて思わず声を上げた俺に、父上は更に怒鳴った。

「離婚するというのに何を言っている!」

そして姉上は溜息混じりに俺に言った。

「だとしてもこんなことになったヒョリンを放っておけないでしょ?」


二人には何を言っても無駄だと思った。
母上は何やら考え込んでいるし、とにかくコン内官が病院から戻るのを待とう。





俺が東宮殿に戻ってから母上から電話があった。
王族会でも大騒ぎのようで、長老たちがやって来て父上と話をしているらしい。

『どうせあなたの処遇についてでしょう』

母上の言葉が、冷淡なのではなく呆れたような口調だったことが、俺としては不思議だった。
声を荒らげて俺に怒るのかと思っていたのだが。

『今、芸術高校内での防犯映像を調べさせています。 何か見つかるといいのですが』
「防犯映像?」

そんなものを調べてどうしようというのか。
今日のヒョリンの動きだろうか?


母上はそのことについて説明するでもなく、コン内官から連絡は来ましたかと聞いて来た。
変装して病院に行ったことを知っているようだった。

「いいえ、まだです」
『そうですか。 とにかく明日の離婚発表は、皇太后さまの命で数日延期することになりました。 今陛下が発表すると、あなたの退位とか皇籍離脱を口にしかねませんからね』

それは良かったと思った。
ユルが宮に戻るなら退位は構わないと思っているが、こんな風に降ろされるのは嫌だ。

『それと、聞いておきたいことがあります。 公主はどうしてミン・ヒョリンに肩入れしているのでしょう? 何か知っていますか?』
「あ・・・」


仕方なく、ヒョリンについて色々姉上に話していたことを伝えた。
夢に向かって頑張ってる、とても綺麗だ、付き合ってるわけじゃないけど好きだ、とか。


『・・・ならば公主は2年以上もそういうことを聞いて来たわけですか』
「すみません・・・」


母上も判っただろうが、俺もこの時になってやっと、姉上のあの思い込みが判った気がした。
チェギョンのことは最近だが、ヒョリンは2年以上だ。
なので俺が今でもヒョリンに心を残していると思っているのだろう。


『公主もまだ満19歳ですからね。 一途というか純粋なのでしょう。 判りました、公主には私から言い含めます』
「ありがとうございます、母上!」




その後漸くチェギョンに電話をすると、ヒョリンの見舞いに行くのかと聞かれた。

「いや、行かない」
『どうして? だって・・・』

俺のせいだと言いたいのだろうか?

『じゃあ・・・、私が行って来てもいい?』
「お前が行くと余計に面倒なことになる。 マスコミも居るだろうし、これ以上騒がれたくない」

そう言うと、それもそうかと思ったのかチェギョンは黙り込んだのだが、でも納得はしていないようだった。
それでも俺は行くなと念を押し、その後チェ尚宮にもチェギョンを何処にも行かせるなと厳命しておいた。



そしてこの事態は、コン内官が戻ったことと学校の防犯映像に映っていたもので、次の日には急変したのである。






関連記事
スポンサーサイト