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参拾弐 12


ヒョリンも居なくなりユルも先月イギリスに行ったというのに、俺は未だにチェギョンと話も出来ていない。
ユルと恵政殿さまが居ないことで公務が増えたこともあって、なかなか登校出来ないからだ。
と、思いたい。


チェギョンから電話が来ることはないので、俺が電話しないと声を聞くことも出来ない。
なので、偶に電話はしている。
と言っても用など無いので、元気かとか明日から試験だなとかその程度だ。


おまけに3年になってから一層教室が遠くなってしまい、学校で姿を見るのは奇跡に近くなってしまった。




「はー・・・」

登校してもチェギョンの姿を見ることも出来ず、溜息を吐くだけの俺の前にはギョンが居る。
ガンヒョンと付き合えるようになったらしく、ギョンはお花畑の中に居るらしい。

「あーー!! 幸せだなあっっ」
「・・・」

どんよりしている俺の前でよくも笑えるものだと言ってやりたいが、その気力も無い。
日々公務や執務、休みの日はボランティアだ。
偶に登校しても、眼の前に居るのはニヤけているギョン一人。

「はー・・・」




そんな時、オ・ヘジンという男性の教育実習生がやって来た。
が、何故かその先生は俺を睨んでいるように見えるのだ。

「イ・シン君。 次答えなさい」
「はい」

今まで授業中に指されたことなど無かったのだが、このオ・ヘジン先生は俺を見据えながら平然とそう言うのである。
実習担当の教師のほうが驚いているようだった。




数日後に登校した時にもオ・ヘジン先生に睨まれ、彼と何処かで会ったことがあるのだろうかと思いながら階段に差し掛かった時、そのオ・ヘジン先生が大きな箱を抱えて階段を登っていた。

その時箱の中から大きな定規が落ちたので、俺はそれを拾って先生のところまで上がったのだ。
すると、礼を言ってくれるのかと思えば、彼が口にしたのは全然違うことだった。

「イ・シン君。 チェギョンが良いのなら、さっさと決めて婚約なり何なりしてくれないか」
「・・・は?」
「でないと皆が迷惑してる」

何を言われたのかきちんと把握出来ずにぽかんと口を開けたままになってしまったのだが、彼はそんな俺を放って、階段を登ってしまった。



「・・・何だったんだ」


皆が迷惑??
どういうことだ??



何故王族でもない彼がそんなことを言うのかが気になり、俺は昼休み職員室に行った。

「オ・ヘジン先生、お話があります」





「今日早退するんじゃなかったか? イ・シン君」
「しますよ。 だからすぐに答えてください。 階段で俺に言ったことはどういうことですか? 何故関係のない先生に言われなくてはならないのか判りません」

先生と二人で屋上に出てすぐ、そう聞くと、彼は怒った。

「関係なくない! 俺はジョンファの恋人なんだ!」
「は??」




アン・ジョンファとオ・ヘジンの家は近所で、所謂幼馴染だそうだ。
彼女のほうから告白して来て付き合いが始まったのだが、相手が王族ということで一般人のオ・ヘジンのほうは尻込みしていて、彼女に引き摺られて付き合っているだけだと思っていたらしい。

「だが違った。 俺はジョンファを愛してるんだ」


俺とユルの妃候補になったと彼女から知らされて、もう終わりだなと付き合いを止めようとしたらしい。
すると、オッパにはそれだけの気持ちしかないのかと、彼女が声を荒らげて怒ったそうだ。

「その時気付いたんだ。 彼女は、そんな話は断れと俺に言って欲しかったんだと」
「・・・」
「だが俺は言えなかった。 王族じゃないから」


元々、ジョンファを好きで付き合っていたわけではないと、自分の中で決着を付けようとしたらしい。
自分は彼女のことをそれほど好きじゃないんだ、彼女じゃなくてもいいんだと。

「そうしたら・・・、ジョンファは泣いて怒った。 私は皇子の妃になんてならない、皇室相手に断る覚悟はある、でもあなたには無いのか。 そう言われた」


そしてやっと、彼女でないと、という自分の気持ちに気付いて彼女に会いに行ったらしい。

「その時には妃の話は終わってたが、その気持ちが本当なら王立高校に教育実習で来てと言われたんだ」


教育実習は自分の母校になることが多いので、公立高校だった彼が王立に来るなんて無理だっただろうに、それでも彼はアン・ジョンファの言う通り、関係者に頭を下げて此処に来たそうだ。

すると次に彼女は、殿下の妃が内定しないと付き合いを再開出来ないと言ったらしい。
王族の娘という立場では、一旦“妃”という話が出たからには、他の男との付き合いは難しいそうだ。


「なので俺にあんなこと・・・。 チェギョンの名を出したのは何故ですか?」
「ジョンファが言ってたんだ。 お互いに好きなのに両方とも馬鹿だって」
「・・・」

お互いに好き・・・?

「ジョンファの言いなりになってるのかと呆れたかもしれないが、好きなら、愛してるならそうなるよ。 俺はジョンファのためなら何でも出来る。 そのことにやっと気付いて、今そうしてるんだ」

だから俺は幸せなんだと、オ・ヘジンはまるでギョンのように笑った。

「だから早くチェギョンと婚約しろ!」

いや、それとこれでは・・・。





オ・ヘジンと別れて宮に帰る途中、俺は彼の言葉を考えていた。

“彼女じゃなくてもいいんだと思っていた”

俺もそう思っていた。
チェギョンじゃなくてもいい、ただ他の女は嫌なだけだと。

“お互いに好き”

多分俺は、チェギョンを好きか嫌いかと聞かれたら好きだと即答出来る。
チェギョンはどうだろう?

“俺はジョンファを愛してる”

俺は? 
チェギョンを愛してるのか?





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