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弐拾 31


アメリカに発つ前の最後の公務はスポーツ大会の閉会式だった。
俺は、参加者の奮闘を労った後、こう言った。

「皆さまの奮闘には遠く及びませんが、私も精一杯頑張りたいことがあります。 そのために暫く韓国を離れることになりました。 どうか、私の勝手な行動をお許しください」

それを聞いて、前方に居た参加者から声が上がった。

「殿下! アメリカに行かれるんですか!?」
「そうです」

その俺の返事とともに、わ~~~~~っっ!!と観客席からも歓声が上がり、拍手喝采となった。


「ありがとうございます。 行って来ます」

手を振ってそう言った俺に答えるように、大勢の人が行ってらっしゃい、と口々に叫んでくれた。
俺とチェギョンのことを応援してくれているのだ。

それが判って、すごく嬉しかった。





電話だけでは、いつまで経っても“友人”から抜け出せない。
チェギョンは他の男に眼を向けないと約束してくれたが、あれは言わせたようなものだし、あれからもう1年半だ。

もしかしたら好きな男の一人や二人・・・。

今までにも居たって言ってたし、1年半の間に出来たかもしれないのだ。
とにかくこの2週間の間に、“友人”から“恋人”に昇格しなければならない。

その決意を漲らせて、俺は三日後アメリカの地に降り立った。





実はチェギョンには護衛という名の見張りをつけている。
もちろんチェギョンには内緒だ。
近所のお兄さんたちだと思ってくれているようなので、バレたら烈火のごとく怒るだろう。
絶対に絶対に秘密にしなければならないのだ。

その見張り、いや、護衛からの報告では、チェギョンには付き合っている男は居ない。
好きな男は居るかもしれないが・・・。



そしてやはりその護衛からの報告で、チェギョンは大学の玄関近くにある噴水がお気に入りで、行く時も帰る時も必ず噴水の前を通るのだそうだ。
なので俺は、ついて来た3人の翊衛司には少し離れていろと言って、一人で噴水に近づいた。






なるほど、綺麗な噴水だ。
チェギョンはこういうものが好きなんだな。

水音を立てて噴き上がる噴水を眺めながら周りをゆっくり歩いていると、向こう側にチェギョンが立っていた。



ウエーブのかかった柔らかそうな長い髪を緩く束ね、ジーンズにシャツ、ジャケットというシンプルな服装だが、大人びたのが遠目でも判るくらいだった。
俺はこの1年半、傍に居られなかったことをすごく残念に思った。

じっとチェギョンを見つめたままでいると、チェギョンがやっと俺に気付いた。
驚いて眼を丸くしているチェギョンが、空港の時と同じだ。
こういう表情が今も変わらなくて、それが少し嬉しかった。
俺は噴水越しにチェギョンを見つめながら、足を進めた。



チェギョンに近付くにつれ胸の鼓動は早くなり、会えた喜びが沸々と湧いて来て、たった今まで冷静にチェギョンを観察していたというのに、俺は走り出したいほど気持ちが昂ぶり始めていた。




「チェギョン、会いたかった」

そう口に出すのと手が出るのが同時だった。
次の瞬間には、チェギョンの細い身体は俺の胸の中にあった。

会いたかった。
会いたかった。

その気持ちを抑えることが出来なくて、チェギョンの戸惑いなどお構いなしに抱き締め、それだけでは飽き足らず、俺はチェギョンの頬を両手で挟んで、有無を言わさずにキスをした。
と言っても初めてのキスなので、押し当てただけだが。


「ちょっ・・・!///  何するの! /// 」

チェギョンは真っ赤になってそう叫んだ。

「俺のファーストキスだ」
「え・・・」
「俺のファーストキスもセカンドキスも、死ぬまでの俺のキスは全部お前のものだ」

そして俺はチェギョンの顔を固定したままで もう一度チェギョンにキスをした。

「愛してる、チェギョン」
「シン君・・・」

唇が触れ合うほどの距離でそう言い、再びその唇を塞ぐ。
何度も啄み唇を触れ合わせたが、嫌がられもしないし、叩かれもしないし、突き飛ばされもしない。


人前だからか?
違うよな、チェギョン。



最後にちゅっと音を立ててキスを終わらせ、俺はチェギョンに言った。

「お前の家族にお土産を持って来てるんだ。 ホテルの部屋に置いてある。 取りに行こう」

真っ赤な顔で呆けていたチェギョンは、俺の言葉で我に返ったようで、うん、と大人しく返事をした。






これは義父上に、これは義母上に、こっちは義弟にと、持って来たものをテーブルに広げると、多過ぎると言ってチェギョンが怒った。

「なんでこんなにあるの? 多過ぎでしょっ」
「それぞれの誕生日の分とクリスマスと新年の分なんだ。 1年半だから2つずつだ。 数はあってるはずだが」
「はーーー」

チェギョンがこれ見よがしに溜息を吐いた。

「こんなにもらっても持って帰れないわ」
「大丈夫だ。 俺も翊衛司も居る。 それにお土産はこれだけじゃないんだ」
「え??」



奥の寝室の前には、所狭しと大小の箱が置かれている。
全てチェギョンへのプレゼントなのだ。

「何これ・・・」

チェギョンは箱の山を見てポカンと口を開けたままだ。

「お前への土産だ」
「これ全部??」
「足りないか?」
「はあ?? 何言ってんの!? なんでこれだけも!??」
「この1年半、公務に行くたびに買ってたんだ。 あとはご両親と同じように誕生日とかクリスマスとか。 それに、綺麗なドレスを見ればお前に似合うだろうかとか、こんな服を着て欲しいなとか、可愛いネックレスだなとか。 気付いたらこれだけの量になってた」
「・・・これだけの荷物を持ってよく税関が通れたわね」
「大丈夫だ。 皇室専用機だから」
「あーー・・・。そうか、そうね・・・」


頭を抱えたようなチェギョンの前で、俺はもうひとつのものをポケットから出した。

「これも受け取って欲しい」


俺はそう言って小さい箱の蓋を開けた。
シンプルだが、小さいダイヤが斜めにいくつも並んでいる指輪だ。
チェギョンの細い指に似合うだろうと、一目で気に入ったものだった。


「・・・それ・・」
「婚約指輪だ」

そう言うと俺はチェギョンの前に片膝をついた。

「シ、シン君っ」

慌てるチェギョンには構わず、俺は自分の想いを言葉にした。

「お前と離れてからも、俺のお前への愛は加速する一方だった。 お前にした仕打ちを忘れてもらえるなんて都合のいいことは考えていない。 だが、その嫌な記憶が薄れてくれればいいと思っている。 俺の傍に居ることで、思い出して気分を悪くするんじゃなく、俺の愛を信じて俺の愛を受け止めて、俺に愛されることで少しでも嫌な思い出が記憶の彼方に行ってくれればいいと思っているんだ」
「~~~ ///// シン君・・・、その、愛・・・って、何度も言わないで・・・ ///// 」

チェギョンは真っ赤になって、辛うじて俺にそう言った。
が、いくら可愛くそう言われても、俺の口は止まらなかった。

2週間しかないのだ。
一日でも早くプロポーズしなければならない。

「俺は言いたいんだ。 世界中の人を前にしても言えるぞ。 チェギョン、俺はお前を愛してる。 さっき、俺のキスはお前のものだと言ったが、お前のキスも俺だけのものであってほしいし、その身体もその愛も俺だけのものであってほしいんだ」
「か・・・っっ、から、だ・・・っ、なんて・・・っ/////」
「愛する女を抱きたいと思うのは当然だ。 チェギョン、俺と結婚して欲しい。 お前のキスも身体も俺にくれ」
「きゃーーー!!! ///// もうそれ以上言わないで~~~っ!! /////// 」

チェギョンはそう叫ぶと、とうとうホテルの部屋を飛び出て行った。


・・・・・・・・あからさま過ぎただろうか。




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