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弐拾 30


シン君からの電話は毎日だ。
夜かかって来ることもあるが、朝は必ず、モーニングコールのようにかかって来る。

『おはよう、チェギョン』
「・・・おはよう、シン君」


私はこの電話で眼を覚ますので、実際、私にとってはシン君からの電話が目覚まし代わりなのだ。

こちらが朝だということは韓国は夜だ。
それも多分日付が変わる頃。

そっちは夜でしょと言うと、これから寝るんだとシン君は答える。
だから私はおやすみと言うのだ。


シン君は忙しいのに、遅くまで付き合わせるわけにはいかない。
私は時間はあるのだが、シン君にゆっくり休んで欲しくて、早めに電話を切るのである。




一度だけ、朝のコールがない日があった。
何かあったのかと心配で心配で、でもシン君の都合があるだろうからと私からかけることは出来なくて、その日は一日気もそぞろだった。
ネットを見ても特に何も出てなくて、何もないということはシン君にも何もないんじゃないかと思いたかったが、でも心配だった。


その日の夜、シン君のほうは午後になっていただろうが、電話があった。
泊まりの公務で移動が続き、眠り込んでしまったそうだ。

『ごめん、起こしてやれなくて』
「ううん、大丈夫よ。 シン君こそ疲れてるのにごめんね。 今は? もう宮に居るの? 公務は終わったの?」
『ああ、今は宮に帰る車の中なんだ』
「そう。 ゆっくり休んでね」
『ああ、また明日』
「うん」


よかった。
余計な心配しちゃった。


シン君の声を聞けたことで、すごくほっとしている私が居た。

この時、これほどシン君からの電話を待っていたのだということに気付いたのだ。




私はシン君を好きになっているのだろうか。

元々憧れてはいたが、結婚してあんな目に遭っていたことで、自分で作り上げてたシン君像とあまりに違ったことに落胆して幻滅して嫌になったはずだった。
婚姻無効になって縁は切れたとほっとしたはずだった。

でも、それから友人のような関係になり、とうとう告白されたのだ。

空港での派手な見送りにもその後のことにも驚いたが、シン君の覚悟を感じていた。



いいのだろうか。
私がもう一度、シン君の隣に立ってもいいのだろうか。





大学で出来た友人の一人が韓国人なのだが、彼女ユミンはアメリカ生まれなので私のことを知らない。

でも韓国のことにはすごく興味があるようで、ネットで仕入れた情報が豊富で、私より詳しいんじゃないかってほどだ。
シン君、つまり当時のシン皇太子殿下の元妻の名前がシン・チェギョンだということも知っていて、婚礼の時の動画も見ているようだが、それが私とは結び付かないようなのだ。

「チェギョン元妃もアメリカに居るんですって!」

と、興奮してマシンガンのように私に捲し立てる。


そりゃあ婚礼の儀の時は綺麗な伝統衣装だし、お姉さんたちに綺麗にお化粧されたから、今の私とじゃ似ても似つかないのは判るわよ?
でも名前も同じで同じアメリカに同じような時期に来たんだから、普通判るんじゃないの???


些か憮然としている私に気付かないユミンは、すっごく嬉しそうに私に言った。

「シン大君殿下って、元妻のチェギョンさんが好きなんだって! 素敵ね~」
「素敵なの? 一度別れてるのよ?」
「だからいいんじゃないの~っ。 やっぱりその相手がいいってことでしょ? コメントにもあったのよ。 離れたことでお互いが必要だって判ったんだって!」

きゃ~っ、素敵~~~っ!と、ユミンは興奮しまくりだ。

いやいやいやいや、宮のコメントはそこまで言ってないし!


ユミンは、派手な結婚式の後散々冷たくして別れたくせに、その相手を愛するなんて運命だというのだ。


「素敵ーーーーー!! ああ~、私チェギョンさんを探しに行こうかしらっっ」
「・・・探してどうするの?」
「もちろん韓国に連れて帰るのよっ。 そしてシン殿下に会わせてあげるのっ」

きゃあーーーーーっ!と、ユミンは自分の世界に入ってしまった。


そんなものなのかしら・・・。


「シン殿下ってハンサムだし、一途だし、最高よね。 私がチェギョン元妃だったら即OK!なのに~」

だから私が会わせてあげるの!と、ユミンはまだ騒いでいた。


私はというと、ユミンが言った、私なら即OK、という言葉にどきどきしてしまっていた。



シン殿下ってハンサム。
うん、確かにシン君はハンサムだと思うわよ。

一途?
そうなるのか?

最高?
まあ、韓国最高の地位にはなるかもね・・・。


即OK・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



その日はなかなか寝付けなかった。





男の子の友人も出来た。
アメリカの男の子っていうのは、ちょっと気を許すとハグは当たり前、うっかりしてるとキスされそうになる。
ハグはともかく、私は、キスはまだそんな簡単に出来ない。

初めてのキスは好きな人とがいいから。

そう思った時、突然シン君の顔が浮かんで、私は慌てて頭を振った。





大学に入学してそんな風に1年が過ぎ、2年に進級した頃、バイトに行くというユミンと別れ、私は大学の玄関に向かった。
途中、少し回り道をして大好きな噴水のところに行く。


ヴェルサイユ宮殿の噴水を模倣したものだそうで、半月形がすごくすごく綺麗なのだ。
近付くにつれ水の音が響いて来て、その綺麗な噴水を飽くことなく見ていると、噴水の向こうに背の高い人の影が見えた。

・・・・・シン君だった。




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