シンの誤算
俺とチェギョンには2人の息子ヨンとサンが居る。
生まれた時は国中がお祭り騒ぎで、国民が挙って祝ってくれていた。
ヨンが4歳、サンが3歳の年子で、やんちゃもするがとても可愛い。
俺もだがチェギョンはもっと2人を可愛がっていて、忙しいながらも少しでも時間があれば彼らのところに飛んで行く。
俺は二の次三の次だ。
そうなるのは仕方ないと思うし、子供に嫉妬などしていない。
だが。
もう少し俺にも構って欲しいと思う時があるのだ。
「じゃあヨンとサンを寝かしつけて来るわね」
「ああ」
寝かしつけて“来る”と言いながらも、“来ない”時のほうが多い。
2人と一緒に寝てしまうのである。
当然俺は1人だ。
不満は溜まる一方だった。
が、公務や訓育に子供たちの世話と、チェギョンが忙しいのは判っているので、俺を1人にするなとかそんなことを言えるはずもない。
が、チェギョンとの時間は欲しい。
そんな時、インからいいことを聞いた。
『俺の兄貴が言ってたんだが、犬を飼い始めてから子供が犬べったりになって、奥さんとの夜の時間が取れたそうだぞ』
なるほど!!!
早速コン内官に頼んで子犬を飼うことにした。
「ヨンとサンに、生き物を大事にするということを学んで欲しいと思って。 言わば情操教育だな」
尤もらしい理由にチェギョンは嬉しそうに納得して、数日後、子犬が東宮殿にやって来た。
「きゃーーーーーー!!! 可愛い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
・・・人一倍喜んだのはチェギョンだった。
勿論ヨンとサンも大喜びで、
「ぼくきょうからワンちゃんとねる〜〜〜〜〜!」
「ぼくも〜〜〜〜〜っ」
ヨンの言葉にサンも同じように声を上げ、俺は内心してやったりと思っていた。
が、子犬がトイレとかを覚えるまでが大変で、あちこちにおしっこをされたりして、女官やチェギョンまでもがわいわい騒いでいた。
「ヒョンはまだ赤ちゃんだもの、仕方ないわよね」
“ヒョン”というのは子犬の名前だ。
最初ヨンもサンも、好きな「ピカチュウ」にすると言い張ったのだが、皇室で飼う犬にそれはと父上が渋い顔をして、それを見たヨンが、「ヒョン」にする!と言ったのである。
おばあさまが大笑いしたことで、それに決定してしまったのだ。
なので今チェギョンたちは、
「ヒョンったらまたトイレの外におしっこして!」
とか、
「ママ〜っ、ヒョンがはっぱをたべてるよ〜」
とか、
「あっ、ヒョンがうんちした!」
とか言っている。
そういうのを聞くと苦笑いしか出ない。
それに、最初女官たちは「ヒョン」と呼ぶのを躊躇っていたが、今ではすっかり、「ヒョンが居ません!」などと慌てている。
それはそれで面白い。
そして漸くヒョンがトイレを覚えて、もうヨンたちと寝ても大丈夫、となり、これでやっとチェギョンが戻って来ると思い、俺は喜んでいた。
ところが。
なんとヒョンが、チェギョンの腹の上でしか寝なくなったのだ。
「ヒョンったら可愛いのよ〜〜〜っ。 眠くなったら私のお腹に乗って来るの! もう〜っ、信じられないほど可愛い!!!」
「・・・」
俺もお前の腹に乗りたいなどと言えるはずもなく、今夜もチェギョンはヒョンが居るヨンとサンの部屋に行くのだ。
「3人を寝かしつけて来るわ!」
3人じゃなく2人と1匹だろうがと俺が言う前に、チェギョンはもう部屋を飛び出ている。
しーーんとした部屋に俺は1人残されるのだ。
結局インの言葉を信じたせいで、俺のライバルが増えただけだった。
インめ〜〜〜〜〜〜〜、どうしてくれよう!!
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