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最高のプロポーズ、最悪のプロポーズ(前編)


俺には好きな女の子が居る。
高校の入学式に一目惚れして、だが声をかけることも出来ずに1年半が過ぎた頃、俺の友人チャン・ギョンが彼女の友人イ・ガンヒョンと付き合い始めたことで、俺も漸く彼女シン・チェギョンと話が出来るようになったのである。

チェギョンと呼べるのが嬉しくてシン君と呼んでもらえるのが嬉しくて、友人の域を出なくても俺は幸せだった。



そして3年になった頃、俺の恋人はチェギョンだという噂が出たらしい。
そのことでチェギョンは、俺と距離を置こうとし始めたのだ。

「変な噂があるみたいね。 ごめんね、シン君は皇太子なのに」
「構わない」

どころか、俺としてはその噂を本当のことにしたいのだ。
なのにチェギョンは、

「ううん、そういうわけにはいかないわ。 だからシン君とは、もう、こうして会わないようにしようと思うの」
「え?」

今俺たちは屋上に続く外階段に居るのだが、突然そんなことを言われて慌てた俺は、思わず告白していた。

「だめだ! 俺はお前が好きだ! だからずっとこうしてお前に会いたい!」



そのことでチェギョンも、俺が皇太子故に諦めていたと言ってくれて、私もシン君が好きと頬を赤くして応えてくれたのである。




その後、俺たちは漸く付き合い始めた。
と言ってもおおっぴらにデート出来るはずもないので、会うのは学校が殆どだが、それでは今までと変わらない。

なのでギョンとガンヒョンも交えて、時々、ほんの時々俺たちは外で会った。
普段着のチェギョンは一層可愛く、眼鏡と帽子で変装している俺を、3人はあちこちに連れて行ってくれた。



高校を卒業する頃にはキスも済ませていて、俺はますますチェギョンを好きになった。



大学生になって一人で車で出かけるようになり、お忍びでデートもしてキスもして、俺たちは恋人同士として過ごした。
公務も執務もあってチェギョンとの時間はなかなか取れなかったが、それでも俺たちは心を通わせたのだ。



同じ大学なので、構内に居る時はなるべく一緒に過ごすようにしている。
そのことで、チェギョンのことはおばあさまたちの耳に入っているようだった。

「チェギョン嬢と結婚するのか?」
「彼女でもいいとは思っていますが、まだ学生ですのできちんと考えていません」

俺の正直な気持ちだ。
そのことで今はまだだめだと思ったのか、おばあさまたちは口を噤んだ。


チェギョンのことは既に調べられているようで、付き合いを反対されないということは、チェギョン本人にもシン家にも何の問題もないということなのだ。

俺はこの時から、何となくチェギョンとの結婚を意識し始めたのである。




そして大学2年の春、俺の誕生日を祝おうと言ってくれたギョンとガンヒョンとチェギョンを、初めて離宮に呼んだ。

全員で一泊したのだが、その夜俺とチェギョンは、それこそ初めて身体を重ねたのである。
勿論避妊はした。
ギョンが、男の嗜みだ!と言って俺にソレをくれたのだ。


初めての経験でもあり、その相手がチェギョンだったことで更に愛おしさが増して、俺はやっと、チェギョンと結婚したいと思った。
チェギョンが俺以外の男に抱かれるなど、許せないからだ。



それからは、チェギョンを抱きたくても大学でそういことが出来るはずもなく、チェギョンは自宅通学だし、まさかホテルに呼び出すわけにもいかなくて、結局また離宮になった。

二人っきりの離宮は、都会の喧騒を離れることでお互いしか見えなくなって、俺たちは深く深く愛し合った。



が、離宮を離れるとチェギョンは家に帰ってしまう。
それが途轍もなく寂しくて、チェギョンが俺の妃になれば朝から晩までずっと一緒に居られるのにと思い、真剣にチェギョンとの結婚を考えるようになったのだ。




大学4年になり、俺の周りは一層騒がしくなった。
大学卒業後の結婚が取り沙汰されるようになったからである。


「恋人はおりません」

俺は今までずっとそう答えて来た。
居ると言えば根掘り葉掘り聞かれるだけでなく、調べられてチェギョンに行き着くに決まっている。

そうなると、チェギョンが好奇の眼で見られることになるのだ。
愛する女をそんな風にひと目に晒したくない。


その気持ちをきちんと伝えているので、チェギョンも判ってくれている。

『私は大丈夫。 シン君は皇太子だもの』

その意味を履き違えるな!とガンヒョンは怒るが、愛してると言葉にしているので大丈夫だ。
と、俺は思っていた。




そして俺の満22歳の誕生日に、俺はチェギョンを東宮殿に呼んだ。

父上たちはチェギョンが恋人だということを知っているので、関係を持っていることが判れば、チェギョンの家に結婚の打診が出来ると思ったのである。
一石二鳥の俺の姑息な策だ。


「・・・ねえ、私が来てもよかったの?」
「勿論。 俺の恋人じゃないか。 父上たちも既にご存知なんだから」

完全に気後れしているチェギョンを、俺は自分の部屋に引っ張って行った。

俺の誕生日を祝ってくれるんだろ?

そう言って。



調子っぱずれのチェギョンの歌に涙が出るほど笑い、ケーキを食べさせ合い、キスをしてベッドで愛し合う。
緊張しながらも、何度も俺に抱かれていた身体は、すぐに俺を受け入れた。




コトが終わってから慌てて服を着ているチェギョンの真っ白な背中を見ながら、俺は本音を言った。

「なあチェギョン。 此処から一緒に大学に通うか?」

今の俺の精一杯のプロポーズだった。
が、チェギョンは俺に背中を向けたまま、あっさり答えたのだ。

「そんなこと出来るわけないわ」
「・・・」

遠回しすぎて判らなかったようだ。





そしてこの日チェギョンが俺の部屋に来たことで、いよいよおばあさまが口煩くなった。

「太子。 そろそろチェギョン嬢に求婚せよ。 いつまで放っておく気じゃ?」

母上も優しく俺に言った。

「卒業後とはいえ、皇太子の婚礼ともなれば準備に時間がかかります。 お相手のことも考えねばなりませんから、早いほうがよいのですよ」

父上もうんうん頷いているし、俺は二人の言葉に乗っかるように、言いたかった言葉を口にした。

「ではシン家に使者を遣わしてください」


俺もすっかりその気になっている。
チェギョンと付き合い始めて4年、関係を持って2年。
いい加減きちんと責任を取るべきなのだ。
いや、俺が取りたいのである。


が、おばあさまは顔を顰めた。

「シン家に使者だと? だめじゃ、己で掴まえよ」
「え?」

己でとは???

「打診などしては、断りたくても断れぬではないか」
「チェギョンも私を好きです!」

断られるはずがない!

勢い込んでそう言うと、おばあさまは首を振った。

「そんなことは判っておる。 皇室に入る覚悟があるかどうかじゃ。 そしてそなたが真摯に気持ちを伝えて求婚することで、その覚悟は出来るはず」
「・・・」


だから自分ひとりでプロポーズして受けてもらえ!というのだ。



父上も母上もすぐにそれに同意して、使者を立てればいいと思っていた俺は、チェギョンへのプロポーズというミッションをクリアしなければならなくなったのである。





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